第118話 お風呂の思い出

子どもたちがやたらとシャワーが長く、一日に数回入ることもあるから、夫婦二人だけの期間とそうでない期間とでは、かなりガス代が変わる。夏と冬でも違う。

うちは田舎なので、文句なしにプロパンガス。

プロパンガスは御存知のようにお高い。

競合している会社もないから、街のプロパンよりも高いのだろう。


私が大学時代に住んでいた女子寮も、その後に引っ越したアパートも、深夜電気温水器を導入していて、料金が安いというのが売りだった。

女子寮は大学の学生寮ではなく、民間の共同下宿であって、トイレとお風呂と洗濯機が共同であった。さすがに今はそういう寮もないんだろうなあ。不便だから。

お風呂は名札をかけた順番に入っていくシステムだったが、ズルい上の学年の人が先に入ろうと勝手に名札を入れ替えたりして、気が付いたら温水が使い果たされて、垢だらけのお風呂のお湯しか使えない状態で自分の番が回ってくるなんてことがあった。

女子だけだからすべてキレイに使って譲り合い精神があると思ったら大間違いで、当時としてもかなり安い家賃だったからか、それなりの女子学生しかいなかったらしく、とんでもないカオス。教育学部の学生も多かったから、今あんな人たちが先生をやってるかと思うと怖くなるね。


そんなこんなで大学近くの銭湯に何度入りに行ったことか。

自転車を全力で漕いで通ったよ。

銭湯の定休日には何度自分の部屋でお湯を作って、シンクで頭を洗ったことか。


結局は、毎日きちんと決まった時間にお風呂にまともに入ることができないその寮を1年住まずに出ることにしたのだった。


次のアパートも深夜電気温水器を使うところだったが、それぞれの部屋に一つずつついているので、お湯が切れるなんてことはなく、ゆったりとお風呂を楽しむことができた。


一日の終わりにその日の疲れを取り去る為に、お風呂に入ってすっきりしたい。

みんなそうだと思う。大学生で引っ越しなども大変だったが、お風呂の件だけでも引っ越してよかったと感じた。


20年以上前のある日、釣りから帰ってくる夫の為に、ご飯を作りながらお風呂をためようとしていた田舎暮らしのまあまあ主婦歴を積んだ私。

夫は釣りで体が冷え切っているだろうから、温かいお湯につかって、温かいものを食べて貰おうと思っていた。


コンロにかけておいた鍋を見ると、なんだかおかしい。

ガスがとまっている。

お風呂の方もお湯を出していたのに、水しか出ていない。


なんども試してみたが、ガスが止まっているのがわかった。


帰宅してきた夫とみんなで温泉へ向かい、その日のご飯は電子レンジを活用して何とか乗り切った。


翌朝、ガス会社に連絡してきてもらうと


「これ、いたずらかなんかで人の手でガス栓を閉めたんですよ。」と言われた。


…そういえば、うちの庭から隣の奥さんらしい人影が出てくるのを台所で見て、回覧板でも持ってきたのかと思っていたら、あれ、うちのガス栓閉めたのか!


「風とか自然条件とか、動物が栓の上に乗ったからとかではなく、絶対に人の手ということなんですね。」

「そうです。そうじゃないと動きませんから。やられちゃいましたね。」


現場を押さえた訳ではないから、奥さんを問い詰めることもできず、開栓方法を説明してもらって、無事ガスを使えるようになった。


「またこういうこともあるかもしれませんからね。覚えてくださいね。」

親切なガス会社の職員さんはそう言って帰っていった。


隣の奥さん、時々こういう頭のおかしい嫌がらせをするので、ご近所でもかなり離れた地区でも有名で、私も普段は注意して過ごしていたのだが、想像を超えてきたなあと驚いた。

やった後は数日テンションが高くて、用事もないのに私の反応が見たいのか接触をはかろうとしてくるから、やはり犯人はあなたなのねとわかる。


何がしたいんだろうね。今もわからない。

お風呂好きの心には、「とっても悪い人間」として記録されている。



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