第111話 父よ

私の父は大阪生まれ、大阪育ちである。

私が生まれ育った愛知県も父親からしたら立派な田舎で、祖父母が遊びにやってきても、「田舎やわ。なんもないなあ。」という認識。

名古屋のベッドタウンだからそれほど田舎ではないとは思う。


そんな父は、私が大学進学で一人暮らしすることになって、大学も一応は県庁所在地にあるというのに

「意外となんもないなあ。田舎やなあ。」と言っていた。

一地方都市なんか、大阪に比べたら田舎だ、そりゃ。容赦なさすぎ。


結婚で本格的な田舎に住むことになった私。

どんな場所なのかを結婚後に実家から確認に来た。


「うわー、田舎やー。昔が懐かしいわー。」


空気がキレイ、水道水も不味くない。道路も混んでない。

景色がいい。

私より父の方が大喜びであった。

やって来るたびに早起きして近くを散歩しまくって、景色のいい道路をドライブする。

遠回りだよといっても「こっちの道が好き」という。


うちから車で1時間ほど離れた観光地にも出かけていったのだが、そこでも

「昔の大阪の街を思い出すわー。こんな風に道が狭かったわー。」と大喜び。


地元密着の小さいスーパーでも

「これ見たことないわ。買うわ。」とカゴにどんどん放り込む。

そしてうちでそれを食べて

「知らないメーカーやけど、美味いわー。」とこれまた喜ぶ。


うちから帰る時もまたそのスーパーに寄って、買い込む。

次からうちに来る時には、大きな発泡スチロールの箱を持ってきて、帰りに大量に買い込む準備をしていた。


もう後期高齢者になった父なので、さすがに車で数時間もかかるうちに来ることはないが、本当はうちやうちの子どもたちのアパートなんかに突撃したいそうな。

事故を起こされてはかなわないから、子どもの住所はずっと教えていない。


夫には教えてやれよと言われているが、父の行動力を考えると教えない方が双方安心であるという私の判断は間違っていない。


「地続きなんだから、車で行けるで」

じいさんなんだから、行かなくて宜しい。

「そんなたいして時間もかからん」

距離があるから、私たちでも相当時間がかかる。

年寄りは新幹線や特急に乗りたまえ。


写真でも送ろうかと思う。

そう、ずっと忘れていた!ごめん、父よ!

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