第110話 かがく

小学生の頃に、毎月「〇〇の科学」というキットをとっている友達が羨ましかった。

子どもができたら、子どもにはぜひとってあげようと決めていた。


あれは近くで取り扱いをしている「〇〇のおばちゃん」がいて、その人が毎月決まった日に届けてくれるという。

街ではきちんとそうなっているのだが、私たちが住んでいる田舎にはいなかったようだった。


申し込みをする際にも確認したのだが、「〇〇のおばちゃん」がいない地域でもほかの地区のおばちゃんがカバーしてくれるから大丈夫とのことで、親子で楽しみに待っていたのだ。


ところがどっこい。

待てど暮らせど来ない。

僻地だから後回しなのは仕方ないのかもと、何日も待ってみたが連絡もない。


何かの手違いかと連絡してみると、担当のおばちゃんがやや怒っている。


「絶対そちらには行きますから、そんなにカリカリしなくても」みたいなことを電話口で言う。

私がカリカリしてるわけではなくて、ワクワク待っているのは子ども。

約束の日にはちゃんと届けてほしい。子どもに説明するのは私なんだ。


何日も遅れてやってきたのは、複数のおばちゃんたち。

物見遊山で友達連れでドライブしてきたご様子。

ややドレスアップした濃いめの化粧をした、機嫌がいいおばちゃんたちが車の中からこちらを見ていた。

友達の予定を合わせる為にうちの子が待たされたのか…。


「ちゃんと届けましたよ」と品物を手渡されると時間が惜しいのかすぐに出発していったのだった。

遅れてごめんなさいねとかいう言葉もなかった。

商品を届けるというよりも、こちらの観光がメインだったんだろうな。

〇〇から交通費の補助とか出てるんだろうなあ、この配達。はあ。


なんだかガッカリしてしまって、しばらくして郵送に切り替えてもらった。

毎回おばちゃんたち優先で待たされるのも、なんか腑に落ちなかったし。


遠いから観光がてらこちらに来るのは別にいいんだよ。

ただね、今月の付録が何だから楽しみだなあ、いつ届くんだろうと思ってる子どもがいるのに、罪悪感なしに後回しにするのは子ども相手の仕事なのにダメでしょうということで。

問い合わせしても、いつ行けるかわからないけど行きますという返事だったのも不信感しかなく。


こんなことのせいではないだろうが、いつの間にか「〇〇の科学」がなくなっていた。


「大人の科学」シリーズは面白くて、後日いくつか購入して遊んだ。


科学の入り口で躓くことなく楽しさを知ってもらって、その世界に入っていく子どもが増えることを祈っている大人としては、「おばちゃん、ちゃんとしてよー」と叫びたかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る