たったひとつのデート作戦 2
「お待たせしたわね。ちょっと告白されてしまって、処理に手間取ってしまって」
「え、大丈夫?」
「そうよね。婚約者が誰かに取られるかもしれないと思うと気が気じゃないわよね」
いやどちらかと言うと告白した男子の行方の方が気になるんだけど。処理って言ったよね?
ひとつさんは表情の変化が希薄で、感情が伝わりにくいうえになかなかパワフルと言うか、結構おかしな行動力があるしついでに権力と金もある。なのでもしかしたら本当に『処理』してきたんじゃって思ってしまう。
「そんな顔しないで。処理ってのは冗談よ」
「良かったぁ。まぁさすがに冗談ですよね」
「顔も知らないのにいきなり告白されたから『貴方と付き合う理由が感情的にも経済的にもわからないのでごめんなさい』って断ったわ」
かなりオーバーキルしていた。
感情的に断られるならまだしも、わからないと言われたら言ってきた人は多分今頃死ぬよりひどいことになっていることだろう。もしも俺がそんなこと言われたら地面のシミになってしまうところだ。
「でも知らない人に告白されても、好意に好意を返せない関係は長続きしないじゃない」
「それを言い出すと俺達も告白されたとき知らない人だったじゃないですか」
「私達は違うでしょう?互いに思い合ってるもの」
そういうものなのかなぁ、と思いつつ俺はひとつさんにばれないように手元のメモ紙に目を向ける。
当然であるが俺は女の子とデートなんてしたことない。なので女の子とデートにどんな場所に行けばいいのかなんて全くわからない。
普通は下調べとかするべきなんだろうが、ひとつさんの行動力に当てられてつい言ってしまったものだからどうしようかと悩んでいる時。
『俺の脳裏に頼れる友人の顔が浮かんだ、そう思っただろ?』
『芦屋……帰ってくれ』
『まぁまぁ。ちょっと話聞こえちゃってさ。デートするんだろう?』
そんなやり取りがあり、芦屋から渡されたのがこのメモ紙だ。あいつは困った時に読めと言っていたが、さっそく困っているので早速だが読んじゃおう。
『困った時はキスしろ!』
そう書かれた紙を俺は即座に破いて捨てた。
うん、俺って友達いないんだよね。こういう時頼れる友達が欲しかったなぁ。全く悲しいぜ本当に。
「なんだか愉快な動きをしているけれどどうしたの?」
「ふと友達の少なさを思い出して悲しくなってしまいまして」
「安心して、私も友達なんていないわ」
「なにも安心できないんですが。あと、意外ですね」
ひとつさんはなんてったってあの数多星グループの社長の孫娘で、さらに見た目もかなり整っている。表情こそほとんど変わらず感情はわかりにくいが、こんな子が近くにいたら是非友達になりたいと人が寄ってきそうだし、事実転校してきたばかりなのに結構人が寄って来ていたと思うが。
「知ってるとは思うけれど私の前いた学校は、私のような大企業の家の子とかが通う、いわゆる名門校ってやつなの。みんな、生まれた時から自分が他人にどう見られているかをしつけられてきた子たち。いろいろと難しいのよ」
「……すいませんでした」
「気にしないで。聞かれて嫌な話題じゃないし、むしろ話せて……」
「いや、そんな深刻な理由を俺みたいなゴミカスの理由と並べてしまって」
俺が友達がいない理由ってだいたい声が小さい、自分から話しかけないの二つに集約されている。ひとつさんの深刻な理由と比べたらあまりに情けなく、自業自得な理由すぎる。
「そんなことないわよ。確かにさだめくんは友達出来ないだろうなぁ、って思うことありますが、一般的な高校生が学校で話す相手がいないというのは今後の人生にも関わってくる重要な事態だもの」
「追い打ちにしかなってない!うわー!わかってるんですよ!俺も自分を変えなきゃって思ってるんです!」
そうだ、俺は自分が変わらなくちゃいけないとどこかでずっと思っていた。だからこそこの機会に変わろうとしてるんじゃないか。
ひとつさんを自分からデートに誘って、なんかいい感じに二人でキャッキャウフフする。俺も、彼女のように自分から行動出来る人間になるんだ。
「ひとつさん、何か好きな物あります?」
「さだめくん」
「ありがとうございます。でもそういうのじゃなくて」
「いえ、そういうものよ。私はさだめくんが好きなの」
どういうことだろう。
普通にひとつさんの好きなものを聞いて、それから何処に行くかとか考えようと思ったのだけれど。
いつもより少しだけ深く微笑み、俺の発言を待つひとつさん。
好きな物が俺、つまり俺はモノ扱いってことか?
いやそうじゃない。ひとつさんはそういう人じゃないはずだ。俺がどういう人間なのか考えて、考えすぎるくらいに考えてから何かを言う人。
「そうだ、俺が好きなところに行きたいってことですね?」
「ふふふ、そうかもしれないわね」
いつもの笑みで曖昧にぼかすけれど、多分これで間違いない。彼女の微笑みを見てそう確信出来る何かがあった。
「それじゃあ、ちょっと距離あるんですけれどこの辺にあるショッピングモールに行きませんか?」
「いいわね、ショッピングモール。行ったことがないわ」
「サラッと住む世界の違いが出るなぁ」
彼女に楽しんでもらいたいという思いは確かにあるけれど、まずは俺は彼女を知らなければならない。
「では行きましょうか」
「あれ、どこ行くんですか?」
「ショッピングモールって向こうよね?この辺りにそれらしい建物は一つしかなかったと思うけれど」
「いや合ってるんですけど……」
ひとつさんが進もうとしている反対方向に、蜂麓さんが運転してるであろう黒塗りの高級車が止まっている。
ひとつさんの召使いである蜂麓さんは、きっと主を迎えに来たのだろうし、言えばショッピングモールまで運転もしてくれるだろう。
「いいの。さだめくんにひとつ、知りたいだろうことを教えてあげる」
人差し指を口元にあて、誰にも言っちゃいけない2人だけの秘密と、暗にそう示すようにしてから俺の耳元に顔を近づけ、小さな声で囁いた。
「私、歩くのが好きなのよ。特に運命の人と、二人で一緒に歩くのが」
「なるほど。それはいいことを知りました。でも、本当に結構距離ありますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、二人ならね」
鼻歌を歌いながら前を歩くひとつさんの後ろに立たないように、かと言って前にならないように注意して。二人で一緒に歩き出す。
なるほど、これは好きになる気持ちが少しだけわかるな。
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