第3話「集落の者」

人影は一人ではなかった。


ぽつりぽつりと見えはじめる。


薄汚れた服を着て、皆鋤のようなものを持って農作業している。


背筋が寒くなった。

この集落は明らかにおかしい。

なぜか、皆が皆四角い紙袋のようなものを被っている。


汚れた紙袋を頭からすっぽりと被り、その顔は見えない。


そんな頭に紙袋を被った村人が、点々と農作業している。


まともではない。

私はすぐに帰ろうと心を決めた。


だが、エンジン音を響かせ走る私に、集落の人間が気づかない訳がない。


紙袋の村人たちは、皆顔を上げ、私の方を見る。


その中の遠い一人が、私を指差し、くぐもったような声で叫びとも怒鳴りとも言えない大声を出した。


私は、悲鳴を上げそうになる。


すると、突然ブレーキが効き、アクセルが緩んだ。


私は止まった。


大声で間違えて入ってきたと弁明しようとした。


だが、その紙袋の者たちは、鋤やクワ、鎌などを手に持ったまま、ゆっくりと私に近づいてきている。


私は本能的に、逃げたほうがいいと悟った。


私は再度アクセルを回し、出口の方を目指した。


狂ってる。


これが老婆の言った「まがいもん」なのだろうか。



私はアクセルを回し続けるが、いつまでたっても、出口へ着かない。


もう着いていい頃だ。

一本道のはずなのに出口が来ない。


周囲はあの気味の悪い不規則に並ぶ小屋しかない。



その時、アクセルが停止した。

エンジントラブルでバイクが止まったのだ。


私は恐怖から鳥肌が立った。


幸い、気味の悪い紙袋たちはいない。


何とか逃げないとまずい。

私は兄に電話した。


「もしもし!兄さん?!変なところで迷ったの!」

私は窮状を伝えようとする。


「…じょうぶか…こにいるんだ…」

兄からの声は途切れ途切れになり、そして、くぐもった音で聞こえずらかった。


普段はこんな事ない。


電波が悪いのだろうか。

「○○集落の北側なの!G〇〇gleアースだと森だけど…変な人たちがいる集落に入ったの!」

私は必死に伝える。

だが、兄からの声ははっきりと聞こえない。


「…かうから…てね」

内容もよく分からない。


すぐに兄との電話は切れた。


そして、電話の電波は「圏外」と表示されていた。



私はバイクを停め、歩き出した。


少しでも出口に近づかないといけない。


私は小屋の間をすり抜け、道路上ではなく、小屋に隠れるように進んでいった。


道沿いだ。


だから出口の方へは行けるはず…


時折、紙袋を被った集落の人間を見かけた。

けっして見つからないように、私は静かに歩いた。


もう限界だ。


疲労で脚は重く、恐怖で身はすくむ。


もう動きたくない。


私はある小屋のそばでへたり込んでしまった。

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