第2話「は い る な」

しばらく山林の道を走る。


舗装されたアスファルト道は、非舗装の道へと変わっていく。


灰色の空からの光も、山林にはわずかに入るだけだ。


山林は夕暮れを過ぎた時のように薄暗い。


目の前に、看板が見えた。

私は原付を止めて見る。


道路標識でも、案内板でもなく‥


道路の端に乱暴に突き立てられている。


白い錆びた金属板に黒いペンキで


「ほ んも んの さと 

 は い る な」


と書き殴られている。

ペンキの字からはインクが垂れ、乱雑な字が涙しているようだ。


薄気味悪い。


もしかしたら、私有地かもしれない。


頭のおかしい住民が、私有地を要塞化していたりするかもしれない。


私は怖くなってきた。

やはり聞き取りはやめて帰ろう。


私は原付バイクのアクセルを回す。


すると、なぜかアクセルが固着したまま、戻らなくなった。


進み出す原付。

ブレーキを握る。


しかし、ブレーキレバーはスカスカで全く効かない。


原付バイクは「はいるな」と書かれた看板を越え、進み続ける。


私は慌てて何度もブレーキする。

だめだ、全く効かない。


「お願い!止まって!」

恐怖に脚はすくみ、震えが来る。

だが、原付バイクは何かに吸い寄せられるように集落の奥へと入っていく。


しばらくして、建物が見えてきた。


錆びて古びたトタンや、朽ちて苔むした木材で建てられた家屋が道の両側に不規則に並んでいる。


家屋なのか、倉庫なのかも分からない。



不気味な小屋群を縫うように、私の原付バイクは進んでいった。

私は飛び降りることも考えた。

だが、こんな所で脚でも折れば遭難すらしかねない。


脳裏には山村の老婆がちらつく

「あすこは、『まがいもん』がおる」


老婆の言葉が、得体の知れない恐怖を呼び覚ます。





すると、小屋の脇に人影が見え始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る