お前を、呪った
ずっとずっと、アンタのことが大嫌いだった。死ねば良いのにって。
確かに、私はずっと疎ましいと思ってた。
ネチネチ陰湿なお母さん、自己中なお父さん。
その二人の嫌なところをしっかり受け継いでるお兄ちゃん。
皆、家の中でだけ横暴なの。外ではニコニコしてるし、礼儀正しくて親切なのよ。別に虐待されてたわけじゃない。
小さい頃にはそれなりに遊びに連れてってくれたし、好きな習い事もさせてくれたし、学校もちゃんと行かせてくれたし。
親として、家族として、普通だったと思う。
でも、だからこそ嫌だった。
ただ私と性格が合わないだけ、ちょっと内弁慶なだけ、機嫌が悪いと意地悪になるだけ。そんな人、世間にいくらでもいるじゃない。ちゃんと憎める悪人だったら良かったのに。
初めて私一人で作ったカレーを美味しいって言ってくれた。
自転車が乗れるようになるまで公園で付き合ってくれた。
そんなささやかで幸せな思い出が蘇ってきて、憎みきれないの。
嫌なところなんて、些細なこと。
テストが満点じゃなかったら、落とした数点の部分をあげつらう。
お兄ちゃんと比べて、できてないことがあったらため息をつかれる。
誕生日プレゼントを喜ばなかったら、舌打ちされる。
挙げてったらキリがないわね。細かすぎて、外で愚痴ったら私の方が恨みがましい恩知らずって言われるわ。一緒に暮らしてるのが息苦しくて、だけど感謝の気持ちがあるのも本心で、ずっと気持ちが悪かった。
でも、家族なんてどこもこんなものなんじゃないのかな。
そんな我が家に義姉さん、アンタが来た。
いちいちお母さんの言うことを真正面から受け止めて、お父さんの態度にオロオロしてた。
可哀想だなって助け舟出してあげてたけど、そのうち苛々するようになった。
困ったら私の方を見るの。助けて、って目をして。
最初はお兄ちゃんの方を見てたけど、お兄ちゃんが何もしてくれないってわかったら、私をアテにするようになった。
私を助けてくれる人はいなかったのに。
義姉さんの、私を見る目。
私を頼っているくせに、哀れなモノを眺めるみたいに同情的な視線が、一番嫌いだった。
こんな人達を家族に持って可哀想、下に見られて可哀想って思ってたんでしょう。
自分こそ口答えできないくせに私を哀れんで、勝手に仲間気分でいたんでしょう。
憎いと思った。不幸になれば良いと思った。死ねば良いと思った。
自分でははっきり言わないくせにお兄ちゃんに全部の罪を被せて、私達家族をわかった気になって、うんざりだった。私は可哀想な人間なんかじゃない。
「自分だけは違う」なんて顔して私達家族を見下してるアンタが反吐が出るほど嫌いだった。
だから、義姉さんを呪ったの。
不幸な家庭になりますように。
可哀想な人になりますように。
苦しんでから死にますように。
一番強く願ったのは、愛する息子がお前より先に死にますように。
優馬が生まれた日から、ずっと。
義姉さんの誕生日、優馬の誕生日。この十六年間、毎年欠かさず呪ってあげた。
何も効果がなくても、儀式をするとその時だけは気持ちがスッとするから、もう習慣になってた。
目が覚めて良かったね、優馬くん。
私、とっても嬉しいの。
だってね、本当に呪えたんだもの。
古本屋で適当に買った、おまじないの本に載ってたやり方で。
願いって、叶うんだね。
霊能者みたいな人達に弱められちゃったのは残念だけど。
もう一度、イチから呪いをかけてあげるから。
絶対に殺すわ。
合鍵でマンションの中に入る。
サプライズ訪問してびっくりさせちゃうの。
玄関を抜けて、優馬の部屋の前に立った。
優馬が驚く顔を想像しただけで、ワクワクが止まらない。何だかいつもより身体が軽くて、一歩進む毎に自分の中に力が漲っていくよう。
ノックすると、返事が聞こえた。
私はゆっくりと扉を開けて、特製の藁人形を取り出した。
「退院おめでとう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます