公園にて

「ヤダァ……“呪い”なんて物騒ねえ」


 大きな口の女の人は俺の隣に座って話を聞いてくれていた。聞き上手だった。

 缶コーヒー奢ってくれた。優しい。


 アイツの、優馬の身に何が起こってるかを俺が知ったのは大晦日だった。目が覚めたってのは優馬のお母さんがクリスマスの日に知らせてくれたけど、優馬本人はまだすごい弱ってて話せる状態じゃないとしか聞いてなかった。

 優馬から俺のスマホに電話が来た時は、めちゃくちゃびっくりしたしめちゃくちゃ嬉しかった。

 三学期中には学校に行けるようにリハビリ頑張るから、って言ってて俺も何かは思いつかないけど何かしら頑張ろうって思った。

 それでしばらく喋ってたら、優馬が急に暗い声になって「俺、呪われてるんだって」って言ったんだ。何で呪われたのかとかは、まだ調査中でよくわかんないらしい。

 肩でも叩いて元気づけたかったけどお見舞い行けないし、気の利いたことも言えなくて、すごいもどかしかった。

 だから優馬に言ったんだ。その呪いを俺がどうにかしてやるって。アイツを苦しめてるモノが、絶対に許せないって思った。

 優馬が倒れた時、周りの人達が助けてくれた。俺は何もできなかった。今度こそ、俺の手で助けてやりたいんだ。


「……まあそれは良いんだけどさ、呪いを解く、じゃなくて“殺す”って何? 食べてくださいって言われたのもびっくりしたけど、“殺す”も大概おかしな話よ」

 女の人はタバコの煙を吐き出しながら言った。


 優馬を苦しめている呪いは、寄生虫みたいに取り憑いて優馬の魂を食べてどんどん大きくなっていってるらしい。今、霊能者みたいな人がちょっとずつそれを取り除いて呪いを小さくしてるって。

 でも、長いこと呪われてきたせいで“核”の部分が優馬の魂に食い込んでて、それを祓おうとしたらアイツの命にも関わることになるから霊能者の人も困ってるらしい。

 どれだけ呪いを小さくしても、その核を取り除かないとまた大きくなってきて、いつか優馬の魂は全部食べられてしまうんだって。


「じゃあ、どうすんの」

「わかんない。俺さ、寄生虫みたいなもんなんだったら殺せるんじゃないかなって思ったんだ。寄生虫ってことは虫じゃん。そういうのに対応した殺虫剤とかあるかなって。殺す方法あると思ったんだ」

「ちょっと」

 女の人はめちゃくちゃ眉間にシワを作ってこっち見た。ちょっと怒ってるっぽい。

「殺虫剤とかの発想はともかく、坊や私に寄生虫みたいなモノ食べさせようとしたってコト?」

「うん」

「ひどくない?」

「ごめんなさい」

 ノータイムで謝った。

「どこまでも素直ね」

 今度こそ食べられちゃうかと思ったけど、そんなことなかった。女の人はタバコを携帯灰皿で消すと立ち上がった。

「私のこの口のこと、すごいって言ってくれて嬉しかったわ。悪いわねえお友達の呪いを食べてあげられなくて。でも――」


 急に風が俺達の間を吹き抜けた。砂埃が上がって、思わず目を瞑る。


「え?」

 目を開けた時には、女の人はどこにもいなかった。

 今まで人っ子一人いなかったはずなのに、犬を散歩させてるお爺ちゃんや遊具で遊ぶ子達がいつの間にか俺の目の前にいた。

 あの女の人、最後に何て言ったんだろう。よく聞こえなかった。

 しばらくベンチで女の人との会話を思い返していたけど、結局わからなかった。

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