発動

12/9 小波渡 優馬(こばと ゆうま)

優馬ゆうま、誕生日おめでとー」


 定期テスト最終日の放課後、幼馴染の木矢部きやべさとるがカバンの奥からゴソゴソとプレゼントの包みを取り出して、僕に渡してきた。

 今日は僕の十六歳の誕生日だった。

「やった、ありがと! 正直さあ、いつくれるのかなって気になってテストどころじゃなかった」

 包装紙を破くと、一冊の単行本が出てきた。今月発売のホラー漫画「殺戮の大壷」の新刊だ。

「お前がスゲー勧めてくるからさ、俺もとうとう買っちゃった。まんまとハマッたわー試験勉強しないでずっと読んでたもんね」

 悟はニヤニヤしながら同じ本をカバンから出してきた。

「マジで? やっぱ悟なら気に入ると思ってたんだよ」

 悟とは小学校からの友達で、高校生になった今でもお互いの誕生日にはこうしてマンガ本を贈り合うのが鉄板になっている。


「誕生日プレゼント、おばさん達に何かリクエストしてんの? 優馬いっつもめっちゃ貰ってるよな」

 帰り道を並んで歩きながら、悟がワクワクした目で僕を見下ろす。中学校に入ってから急成長した悟は、僕よりも身長が十センチ以上高い。

「んー、先週ゲーム買ってもらったからそれが誕プレ代わりだってさ。お祖母ちゃん達もくれるだろうけど、あっちで勝手に選んで送ってくるから正直あんまり嬉しくないんだよなあ」

 大して欲しくないモノを貰うことよりも、お父さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんから何かしてもらうと、お母さんがしばらく機嫌が悪くなるから嫌だった。

 最近は特にお母さんとお祖母ちゃん達はギスギスしてる気がする。

「そっかあ。まあ確かにいらないもん貰ってもビミョーだな」

 こういう時「貰えるだけありがたいと思え」とか言わない悟は、良い奴だなと思う。話してて安心する。

「今日はもう帰ってケーキ食べて寝るだけだよ」

「晩飯も食えな」

 そうやって、くだらないことを言い合いながら公園前の道を渡っていた時だった。


 ぶくり


 左胸から、突然変な音が聞こえた気がした。思わず胸を押さえる。


「……おい、どうした?」

 横断歩道の真ん中で急に立ち止まった僕の顔を、悟が心配そうに覗きこんでくる。でも返事をする余裕がない。


 ぶくり


 左胸がどんどん熱くなってくる。今まで感じたどの熱さとも違う、中から焼けつくような感覚がどんどん膨れ上がってきていた。


 ぶくり


「……っ、がっ、ぁ」

 何だコレおかしい絶対ヤバい、と思った時には声が出なくなっていた。それどころか、呼吸ができない。吸うことも、吐くことも。


「おい! 優馬! どうしたんだよ!」


 悟が僕の両肩を掴んだ。視界が揺れる。悟の声がどんどん遠くなっていく。苦しい。息が。首を掻きむしる。

 ごとん、と衝撃が身体に響いた。

 ああ、僕は倒れたのか。悟が僕を起こそうとしてる。

 それより、息が。いきが、いきが、いきが


「ゆうま!」

 不意に視界が真っ暗になった。


 ぶくり


 意識が途切れる直前、もう一度おかしな音が聞こえた。


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