第2話 妖怪・モチ殴り女
『こんばんは~。ユマぺぇで~すっ。あけましておめでとうございま~す』
ユマさんとボクは、バーチャル配信者である。
『今日は初詣の帰りなんですよね~』
『はい~。一周年だもんね~。すごいよね~』
ボクたちは2022年の元旦からバーチャル配信をはじめて、今で一年となった。
会員数は5000人と、まあまあの出来である。
とはいえ、ボクたちのような個人勢からすれば奇跡だった。
本名のあだ名を使って配信しても、変な電話がかかってこない。
それくらいの知名度しかなかった。
けど、一応収益は出ている。
そのお金は、月額映画見放題のサブスクに、ほとんど消えるけどね。
『でね、験担ぎでおみくじを引いてきたんです!』
『ぺぇくんは大吉だったんですが、わたしが大凶だったんですよ~。ショック~』
『ユマさんの内容は、どんな感じだったっけ?』
『えっとねー。待ち人すぐに来るが失せる……だってぇ! 怖~い』
ボクの横で、ユマさんが泣きマネをする。
もっとも、それが見えているのはボクだけだ。
バーチャルアバターは、首をブンブンと振っているだけ。
『そんなかわいそうなユマさんのために、ボクはサプライズを用意致しました!』
『え、マジ?』
さっそくVTRを流す。
画面の向こうには、アニメ映画の台本を持った男性が。
『こんばんは。声優のリュリューです』
『ふぁ~~~~~~~~~ッ!』
どこから声を出してるの?
ユマさんが、悲鳴に近い歓喜の声を上げた。
『ユマさん、配信でボクのファンを公言してくださっているそうで、ありがとうございます。ボクもユマぺぇさんの配信を、楽しみにしていますよ』
『あ~。ありがとうございますぅ』
よかった。
スーパーチャットの収益をほぼ全額使ったかいがあったな。
ボクたちは、本業でもそれなりに稼いでいる。
配信の収益は、おまけみたいなものだ。
なので、こういった使い方も可能である。
数分、数万円でOKしてくださった。
ファンであるから、もっと安くてもいいとおっしゃってくださったが。
『えっと、そんなユマさんに、実はご報告があります』
『ん? なに?』
コレは、予想外。
ボクも、こんなサプライズは知らないぞ。打ち合わせにない。
声優さんが、女性声優さんを連れて横並びに。
『実は、こちらのぱぱもんさんと、この度元旦婚をしました』
『――!?』
ユマさんの顔から、光が消えた。
『ユマぺぇさん方に負けないような立派な夫婦になりますので、応援よろしくお願いします』
といって、VTRは切れる。
『あの……』
『お、お料理配信しますねー今日は、お雑煮を作ります』
ユマさんが、バーチャル配信から、手元配信動画に切り替えた。
『具材は切ってありますから、おモチをつきますね』
今から!?
『あらかじめ、蒸しておいたモチ米がこちらです』
ああ、用意してあったんだ。
うちには、炊飯器でモチをつける。
『さて、これを……パンチパンチパンーチ!』
なんと、ユマさんがモチ米を炊飯器に入れずに素手で殴り続けた。
『リュリューが結婚した! もう新作アニメ映画も何回見たかわかんないくらい見た! わたしが学生の頃に出てたアニメも毎週楽しみにしてた! そのアニメ見るだけのために部活もバイトも入らなかった! おかげで未だにコミュ障だよ!』
はあ、はあと、ユマさんが息を整える。
『推しの幸せがわたしの幸せっていうじゃん……でもね、これはこれそれはそれでしょ!?』
また、パンチをモチ米に連発し始めた。
『推しが誰かと幸せになることはうれしいよ! でも、リュリューが結婚した。リュリューが誰かのものになった。誰かだけのものになった。それは事実なんです! だから相反する心を持っていたっていいでしょ!?』
そうやって、悲哀と切なさでできたお雑煮を、二人で食べる。
こうして、配信を終了することに。
「ユマさん、ごめん」
「ぺぇくんが謝ることじゃないよ。まあ、大凶っちゃ大凶だけど、ああいうのもいいかな?」
「そうなの?」
「だって、ぺぇくんと結婚できたってだけで、大吉だもん!」
ボクも、大吉の効果が出た。
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