第7話バイトの内容と記憶



 えーと、ボクはここで良いんですよね?‥‥‥ノック三回したら‥‥名前と年齢‥‥‥‥。


 コンコンコン


 『失礼します。黒沢和也・十五歳です‥‥‥』


 受け付けの女性と、白衣の青年の指示通り、和也はノックして名前と年齢を言って、ドアの前で待機する。


 チラッと見れば、緋崎も浅黄も同じようにノックして、名前と年齢を言って、ドアの前に待機していた。


 そのまま待つこと数分、元来わりとのんびりしている和也は、室内からの入室許可を苛立つこともなく待っていた。


 『お待たせしました。黒沢和也君、入室を許可します』


 感情というモノが綺麗さっぱりと削り取られた、無機質な入室許可の声に動じること無く、和也はドアを開けて入室する。


 『失礼します』


 頭を一つ下げて和也が室内に入ると‥‥‥‥。

 そこには病院にあるようなモノがデンッと存在していた。

 そうまるで、MRI?CTスキャン?のような装置があり、数人の男女取り混ぜたスタッフと、幾つモノ画面や医療機器?のようなモノが揃っていた。

 元来おっとりしている和也だが、流石に異様な雰囲気を感じて、思わず問い掛けてしまう。


 『あのぉ~‥‥つかぬことを訊きますが‥ここのバイトって、いったい何をするバイトなんですか?』


 ちょっとこわごわしながら、和也はそのベット?のようなモノを見て眉を顰めながら聞く。


 『‥ボク、センパイから時給の良いアルバイトとしか訊いてなくて‥‥‥詳しいバイト内容を訊いてないんで‥‥出来れば説明して欲しいんですけど‥‥‥』


 和也の質問に、そこにいたスタッフは、ぬるぅ~く笑う。

 そして、ネームプレートの上に主任という刻印が打たれた女性が、和也の前に来て、無愛想に言う。


 『私が、此処の主任を務める藤田です。別に何も訊いて無くても大丈夫です。これから詳しく説明をします‥‥』


 藤田主任のはっきりとした断言に、和也はバイトを断ることを諦め、腹を括って頷く。


 『はい、では説明をお願いします』


 和也の素直な反応に気を良くした藤田主任は、病院に有るような椅子に座る事を手振りで指示しながら、バイトの内容を説明しだす。


 『ここは、いわゆる次世代型のゲームソフトを作るところよ。貴方は、その被験者兼クリエーターというところかしらね‥‥‥取り敢えず、そこに横になってくれる、そしたら色々な測定器を着けるから‥‥‥』


 藤田主任の指示に従って、和也は指定された場所に仰向けに寝る。


 すると、それまで別の計器類や測定器の調整していた他のスタッフ達が、ワラワラっと和也に群がり、頭部や手足に配線の付いた器具を装着させていく。


 『君の資料を見る限り、スポーツマンの部よりも、一般の部に近い数値と経験値が計測されると思うけど‥‥高校の部活でバスケをやっているなら、スポーツマンの部でも構わないわね‥‥どれくらいバスケをしてるのかしら? 中学生の時もバスケしてたのかしら?』


 和也にはよく理解からない事を言いながら質問して来る藤田主任に、ちょっと首を傾げてから答える。


 『一応、中学校でもレギュラーしてました‥‥‥海誠高校でも、レギュラーです‥けど‥‥‥』


 その和也のセリフに、女性主任は、相沢と良く似た笑みを浮かべる。


 うっ‥‥なんだろう‥すっごいデジャウ?‥悪いこと(かなりキツイ練習メニュー)考えている時の相沢センパイと似たような笑顔‥‥‥‥あっ‥‥なんかイヤかも‥‥。


 『そう‥‥それじゃ‥スポーツマンの部でOKね‥』


 頷いた藤田主任は、側にいた男女のスタッフに厳しい口調で声をかける。


 『ほらほら、黒沢君に測定用の器具を装着したからって‥‥‥‥ぼさっとしてないで‥‥‥さっさと彼用のセッティングをドンドンして‥‥‥』


 スタッフにそう命令した藤田主任は、作り物めいた微笑みを浮かべて、和也に改めてバイトの説明を始める。


 『それじゃ黒沢君、バイトの説明をするわね。さっきも言ったけど、これは次世代型ゲームの被験者兼クリエーター作業をするところなの‥‥‥簡単に言うと、一種の頭脳労働で、実際に体力を使うような肉体労働ではないんだけどね‥‥‥』


 そう言いながら、寝ている和也の顔の前に電子パネルをセットする。


 『これはなんですか?』


 その質問に、藤田主任は、寝ている和也がパネルを操作しやすいように角度を整えながら説明を続ける。


 『見ての通り電子パネルよ。後で、必要事項を入れてもらうわ‥‥‥で、まず、黒沢君のバイトは、いわゆる体験型のゲームのクリエイターね‥‥‥ただ、かなりリアルに作られているから‥‥‥‥』


 藤田主任の説明を聞いても、和也にはいまいち判らない状態だったので‥‥‥‥。

 どこまでいってもマイペースな和也は、ちょっと質問をしてみることにした。


 『あのーリアルなゲームって、このパネルの他にボクの周りにもゲームの映像が、映し出されるんですか?‥‥‥‥臨場感たぁーっぷりにする為に?‥‥‥見たところ投影用のパネルは‥‥見当たりませんが? それに、スピーカーらしいモノも見当たりませんが‥‥‥‥』


 和也の質問に、藤田主任は作り物めいた微笑を浮かべて答える。


『うーん‥‥それは‥‥ちょっと古いわね‥‥次世代型って言ったでしょ‥‥』


 和也は、藤田主任の言葉のニュアンスとMRIモドキの群れを見て、脳裏に浮かんだいやぁーんなモノを口にしてみた。


 『まさか、脳に直接、刺激を与えるなんてことは‥‥‥ないですよねぇー?‥』


 『うふ』


 不安を覚える和也に、藤田主任は会心の微笑みを浮かべた。




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