第10話
僕はヒワタの言いつけを破って、クッシーロ監獄の門を叩いた。
昨日の門番に頭を下げ続け、ようやく門の中に入れた。
高い塀のある広場の中心には痩せ細った囚人を囲む看守たちと昨日の
「罪人は店の飲み屋で暴れ回り、一人の命を奪ったかつての英雄様だ。罪名は殺人罪。貴様を氷結刑に処す」
彼は確かに罪を犯したから適切に裁かれるのが正しいのだろう。
しかし、昨日の悲しげなヒワタの顔を思い出すと体が勝手に動いていた。
処刑台まで跳躍し、
「これ以上、その刀を悲しませる行為をやめてください!」
「昨日の小僧か。早くつまみ出せ」
僕の両腕を掴む看守の力が強くて振りほどけない。
自分一人ではどうすることもできず、叫ぶことしかできなかった。
「彼女を悲しませないでください!」
「彼女? 何を馬鹿なことを。邪魔するなら貴様から氷漬けにしてやるわい」
「……これが
「
突きの構えで腰を低く落とした
ゆっくりと迫る切っ先が僕の腕を薄く切り、生温かい血液が指先を伝って流れ落ち、足元の雪を溶かした。
「次は本気だ。この
「もうヒワタに人殺しはさせたくない。二度と苦しませたりしたくない」
「刀はただの道具にすぎん。最後までおかしなガキだったな。家族には『このクッシーロの寒さに耐え切れずに凍死した』と伝えておこう。安心して逝け!」
「僕は死なない!」
叫んだ瞬間、胸の奥が心地のよい熱を帯びて心臓が跳ねる音が体中に響いた。
「無茶をしてるわね。こんなところで死なれると困るのよ」
聞き慣れた声を知覚した時には既に僕を拘束していた看守がよろけていた。
とっさに飛び退くと僕は
追撃するように放たれた
「ヴィオラ!? どうやってここに!?」
返答は頭の中にだけ響き、彼女がいかに野蛮なやり方でここに侵入したのかを知る。
「分かったよ。さっさと終わらせて暖かいお風呂に入ろう。いくぞっ!」
刀身を長時間の雪に晒すわけにはいかないから一気に決めるつもりで腕と指を動かす。
「
突き刺さなければ最大の力を発揮できない
この状況なら圧倒的に僕の方が有利だ。
「ギヤァァァアァァァ!!」
彼らの叫び声は監獄内に響き渡り、それを聞いた囚人たちも恐怖で身を縮こまらせながら奥歯をガチガチと鳴らしていた。
「これ以上続けるなら心を壊します」
「もう殺さなくていい。僕はきみの鞘を持っている。これから残りの八人を探すつもりなんだけど、一緒に来てくれない?」
「な、なんだ!? 刀が人の姿になっただと!?」
クッシーロ監獄の人たちはヒワタの存在を本当にただの刀だと思っていたようだ。
驚く
「私を許していただけるのでしょうか」
「許すもなにも、あなたは自分の意思で人を殺してきたわけではないはずだ」
「逃げ出すことはできたのに、そうしませんでした」
「ヒワタは義理堅いから何か理由があるはずだ、とヴィオラが教えてくれました。これから先は悲しませたりしないと約束します」
ヒワタは綺麗な瞳から涙を流し、僕の手を取ってくれた。
「刀が人になるなど聞いたことがない。
「先々代の
「止めろ、そんなことは許さん。絶対に許されんのだ!」
期待の目を向けるヒワタに向かって首を横に振る。
僕には刀を振る才能がない。
足元を凍らされて身動きが取れない
「試してもいいけど、かっこ悪いことになるよ?」
この緊迫した状況をぶち壊す真似はできない。
渋々納得したヒワタは
「久しぶりですね、ヴィオラちゃん。すぐに済むので私を握って、突き刺してください」
「しょうがないわね」
つまらなさそうに立っているヴィオラが
「やめろ、来るな!
そして、往生際の悪い
「うるさいのよ、小物風情が。弱者は黙って言うことを聞きなさい」
サクッという表現が適切だろう。
何の抵抗もなく体の中に進んでいく
絶対にヴィオラとヒワタを怒らせないようにしようと誓った瞬間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます