第6話
【ゼィニク陣営】
日が落ちる前までには野営の準備を終わらせるつもりのゼィニクだったが、慣れない作業に手こずり、いまだに設営はできていなかった。
「そういや、あいつに手切れ金を渡さなかったな。おっさん、最低だな」
「あんな
「ほとんど俺たちが食ってたけどな。おっさん、そんなことより早くしろよ。あと、飯」
設営を後回しにして、火起こしにも手こずるゼィニクを興味なさげに眺めるセンスの隣では、ナガリが貧乏ゆすりを続けている。
「飯の準備もまだ……」
「いつまでやってんだよ」
「まったくですわ。焚き火ひとつで情けない」
汗だくになりながらも火種を作ることに成功したゼィニクだったが、興奮して荒い鼻息を吹いてしまい、火種はすぐに消えてしまった。
「あ゛ぁ゛! 辛気くせぇ!」
「うちが火を焚きますから、あなたは魚でも捕ってきてくださいます?」
「しゃーねぇな。おっさんはテントを張っとけよ」
ナガリは川へ向かい、
月明かりだけが頼りの夜の中で稲妻が
「……チッ。やっぱり上手く制御できねぇ。狙った位置に落とせないなら使い物にならねぇじゃねぇかよ!」
ナガリ自身も落雷を避けながら手当たり次第に雷を落とし、十数回目にしてようやく川の中心に落とすことに成功した。
水面に電撃がはしり、川魚たちが一斉に飛び跳ねる。
一瞬にして川で泳いでいた魚を感電させたナガリは川岸に打ち上げられた三匹だけを持って帰り、それ以外は放置されたままだった。
その頃、野営地に残ったセンスは
しかし、爆発の規模が大きく、用意した小枝は簡単に炭になってしまう。
「イライラしますわね。まどろっこしいのは嫌いですわ」
ナガリと同様にセンスもまた
狙った位置にも、思い通りの火力にも調整が利かない刀は敵味方関係なく焼いてしまう危険な刀だった。
気づけばセンスの黒髪も毛先が少し焦げていた。
「センス殿、
「言われなくても分かっています。黙って設営を続けなさい」
なぜ自分たちがこのような目に遭わなければいけないのか、と二人は密かに思案する。
「こんなことなら、あの無能を追放しなければよかった」
センスはゼィニクの呟きで思い出した。
これまでの旅で鞘の勇者は一度も傭兵としての働きはしていない。しかし、自分たちが人間らしい生活が送れていたのは彼がいたおかげだった。
料理、洗濯、設営。それら全てを担ってきたのがサヤだ。
彼が部隊を去ってからセンスはまもとな食事を食べていないことに気づいた。
「……無能ではなかった、ですわよ」
再び、
「おぉ! さすがセンス殿。しかし、火が強いのではないか?」
「やかましいですわよ。暖が取れれば文句はないでしょうに」
ゼィニクが三人分のテントを張り終える頃に、魚をぶら下げたナガリが戻ってきたが彼に調理ができるはずもなく、燃えさかる丸太の前に串打ちした魚を雑に置いた。
「なんだよ、山火事でも起こそうってのか」
「おたくこそ、ピカピカと何発も眩しかったですわ。まともに扱えない武器なんて無い方がよろしいのでは?」
「あ゛ぁ゛? お前こそ、火力調整ミスってんじゃねぇかよ!」
「ま、まぁまぁ。お二人とも、その辺で」
脂汗を流しながら
これまではその役目も鞘の勇者が担っていた。彼がいなくなり、サヤの次に存在価値の低いゼィニクに矛先が向くのは当然のことだった。
「何もできないくせにさっきから偉そうにして。殺しますよ」
「そうだぜ、おっさん。この刀があれば俺は最強なんだからよ。今なら一人でも戦に勝てそうだぜ」
ゼィニクのこめかみに青筋が浮かぶ。
しかし、刀を持たない彼が二人に敵うわけもなく、口ごもりながら怒りを収めることしかできなかった。
「
魚は黒焦げになってしまい、別の魚を川に捕りに行ってもすでに鮮度が落ちていて食べられたものではなかった。
丸太の火はセンスが撒き散らした粉に引火し、森を燃やして山にも燃え移ってしまった。
結局、三人は家屋に押し入り、食い物を盗んで空腹を満たした。
その際にはナガリもセンスも
彼らはまだ所有している刀の本当の使い方を知らない。
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