第16回『憧れ』:パルクール

 道も崖も公園も遊具も彼女を阻む事は無い。自由なお姉さんに憧れた。車椅子で安全な場所から目で追うしかできない私にお姉さんはふと言った。――何で?

 意味を考え続けた私は機械工学を進路に選ぶ。歩行補助具の簡素化を研究し才能のなさに都市工学へと道を変える。縁と子を授かると児童福祉を、地域と繋がり商工会から地方政治へ。子の成長と共に視野は国へ世界へと広がった。あらゆる人が行動と思想の自由を阻害されない。そんな社会世界を目指している。


「パルクールだわ」

 私はきょとんと見返した。

「社会を軽やかに移動する。移動して道にする」

 かつてパルクールで世界一となった憧れの人が懐しい笑顔で言葉を続ける。

「あなたこそ私の憧れ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る