第14回『忘れる』:形骸

「我が社は伝統を重んじています」

 広報担当はカメラへと営業用の笑顔を向ける。

 消えかけた村を企業城下町に仕立て上げた。便の良い川沿いの耕作放棄地に社屋と社宅を並び建て、山中の神社までを整備した。土地に伝わる舞と謡いを社員に学ばせ、絶えかけた祭も盛り立てた。

 マイクは若手に向けられる。本心からの笑みが映える。

「正直、謡の意味も舞の意味もわかりません。けれど、伝統を守ることは素晴らしいことです。祭の日が嵐でなければ言うことナシです」

 雨の季節も半ばを過ぎ、嵐の気配で風が強い。水が少ないままの谷川を渡って取材班は帰路につく。

「良い特集になりそうね」

 村人に草場の陰から見守られながら、彼らは仕事に継承に忙しい。

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