第9回『育つ』:育った木の中
――植物は細胞一つ一つが硬いから、空洞になっても倒れないの。
母に連れられて見た巨大な杉は、根本に大きな虚を抱えていた。その枝は見揚げた視界のすべてを覆い、まるで世界が私と母と杉だけになったかのようにさえ思われた。
あのとき私は『苗木』を手渡されたのだ。私という一つの生物は『杉』と母の言葉によって育てられた。『杉』の母の言葉の一つ一つが私を作る。まるで木が高く大きくなるように。
もっと枝葉を自由に広げられたらどうだったか。草原のなかにポツンと生えていたならどうだったか。木でない私は時折そんなことを思う。
私の木の大きく育った虚の中には、今は相棒や友人や子供や恩師が住み着き。時々火の粉が舞い飛んでいる。
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