第5回『待つ』:怪談の女

 山谷の口。ありえない場所に女が独り立っている。

 濡れそぼって服はズタズタ、足は目を凝らしてもわからない。

 女を乗せてはいけない。それはここらのドライバーの間の口伝。七年前に死体遺棄のあった場所。女性が拉致され暴行されて挙げ句の果てに殺された。

 だから決して、乗せてはいけない。


 *


 脅しとも警告ともとれる激励の言葉に背を押され、新卒新人ドライバーは初単独夜勤に出発する。

 件の場所で件の女へドアを開ける。言葉を待たずに発車する。迷うことなくアクセルを踏む。

「着きましたよ」

 ミラーの中に女はおらず、安物のネックレスが心細げに落ちていた。

「待たせてごめん、姉ちゃん」

 彼女の自宅のあった荒れ地で、ドライバーは独り呟く。

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