閑話

放置しても 自然に治ることのない病気。

その中で もっとも 身近な病気が、【虫歯】です。


さらに、虫歯を放置することで、虫歯菌が増殖し、それらが血管の中に入り込むと、血流に乗って全身へと広がっていくのです。

この時、発症リスクが上昇するのが心筋梗塞や脳梗塞といった血管の病気です。

繁殖した大量の細菌が血流に乗ると、血管内で血栓を作る原因になったり、炎症反応によって血管壁を硬くしたりすることがあります。


その結果、生じるのが心筋梗塞や脳梗塞、それから動脈硬化などの病気です。

これらは命に関わる大病といえますので、何よりも注意する必要があります。



***


「えー。今日から、君たちと

 一緒に働くこととなった 光楽カナ さんだ。

 仲良くやってくれ。


 それと、蜂羽くん!

 光楽さんに おかしなことは 吹き込まんでくれよ!」



蜂羽さんは、ギリリと目線でマウントをとると抗議した。


「わたしが、いつ、どこで。

 おかしなことを吹き込んだというのでしょうか?」

「お、おい。……顔が近いって💦

 彼女はこの若さで『診療報酬請求事務能力認定試験』を取得し優秀な人材だ」


「だから?」


ぐっとつめ寄る蜂羽さんに気おされ、

平井は玉田さんの後ろに隠れて抗議した。


「こっちは、レセプト処理で雇ったんだから、

 くれぐれも、レントゲンやMRIの使い方なんかを教えちゃいかんぞ」


そんな情けない医院長の姿を見て蜂羽さんは、小さく舌打ちをした。

 

「先生。今月支給されるボーナスの件ですが―――」

「なんだなんだ、藪から棒に!?」


「そうですね。では、順序だててお話しさせていただきますが、

 先生は、『1リットルの涙』という作品をご存知でしょうか?」


「もちろん、知っとるよ。

 木藤亜也さんが書かれた

 『脊髄小脳変性症』という病にかかった少女の話だろ?

 あれは、泣けたねぇ~」


「脊髄小脳……症?」

「あぁ…。光楽は知らないだろうね。

 小脳、脳幹、脊髄が徐々に萎縮してしまう疾患のことだよ」


「先生なら治せますよね」

「まぁ、楽勝だな」

「すごい! 先生、なんでも出来るんですね!」


光楽さんが目を丸くして驚いていると、玉田さんが割って入ってきた。


「そうなのよ。

 最近では、せんせ~のことを【令和のブラックジャック】と

 呼ぶひとがいるのよ」

「令和のブラックジャック、ですか…。本当にすごい先生だったんですね」


光楽さんが感動していると、蜂羽さんが受話器に手を伸ばした。


「もしもし。

 昨日お電話さし上げた、平井歯科医院の蜂羽です。」


『―――――――』

「はい。可能だそうです」


『―――――――』

「はい。ですので、本日の診察時間外に来ていただけましたら

 当医院長の平井が対応します」


『―――――――』

「治療費は 5,000万 円になります!」


「ちょっと ちょっと💦」平井は慌てて、受話器を取り上げた。


「すみません。お電話かわりました、平井とお申します」


『―――――――』

「いえ、ウチは歯科医院なので―――」


『―――――――』

「いえ。そういうわけでは……

 治療費は、5万円で結構です。はい。」


『―――――――』

「はい」


『―――――――』

「お待ちしております」


時折、受話器越しにお辞儀をして対応している平井を見ていると、

クレーム対応のプロではないだろうかと勘違いしてしまうほどだ。


「いったい、何を考えとるんだ、君は!」

「500万で」


「なにが?!」

「ボーナスのお話しです」


「君は―――」

「5,000万の仕事を取ってきたので、

 ボーナスを上げてください」


「ぐっ。………………なら、250万で、どうだ」


その返答を聞いた蜂羽さんは、

平井の肩に そっ と手を置いて、優しい声で訊ねた。



「先生は、『桜のような僕の恋人』という作品をご存知でしょうか?」


「ああ。宇山佳佑さんの作品だろ?

たしか『早老症』の患者さんのお話で、

人の何十倍もの速度で老化する難病を抱えた少女の―――」


「それ、あたしも読みました!」

光楽さんが 嬉々として みんなの会話に入っていく。


「不思議な病気ですよね」


「あー、あれ。単純な理由で起こる病気だよ」

「そうなんですか?」


「魔力回路の暴走というヤツだな。

 こっちの世界では、生命回路の暴走と言ったところか。

 光や熱なんかは、1次元の存在

 電波とかは、2次元。

 そんな感じでな、魔力回路を――――」


平井が ドヤ顔で 光楽さんに説明しているのを余所に、

蜂羽さんが、手早くどこかに電話をかけていた。



『―――――――』

「はい。可能だそうです」


『―――――――』

「はい。ですので、本日の診察時間外に来ていただけましたら

 当医院長の平井が対応します」


『―――――――』

「治療費は 100,000,000円になります!」


「待った 待った💦

 なに? なんなの、そのべら棒な金額は!

 ちょっと、かして!」


『―――――――』

「いえいえ、決してそのようなことは。

 ウチは歯科医院なので―――」


『―――――――』

「いえ。そういうわけでは……

 治療費は、5万円で結構です。はい。」


「400万で」

「ぐっ。………………300万で、お願いします」



職場のひとは、みんな、こう呼ぶ。


土下座のブラックジャックと―――



🦷 ちゃん ちゃん 🦷

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