幕間

ナオミの警告


 夜空が輝く中、達也は一人帰路につこうとしていた。


 最初の戦いが終わり、各戦隊との顔合わせを済ませて達也は家に戻ろうとしていた。


 正直散々だった。

 

 セイバーVの女の子達からはコミュ症である事を突っつかれたり。

 

 憧れの伝説のヒーロー猛とは口論になって熱くなってしまった。悪い人間ではないが意地悪な性格みたいだ。


 そして最後はトライエッジのお姉さんに絡まれ、そして最後は薫にボコボコにされた。幾ら何でも急所に蹴りはないだろうと思う。

 正直ムカムカしていた。

 

「あら? ヒーローになったばかりだって言うのに不用心過ぎない?」


「え――」


 ポニーテールの金髪碧眼の爆乳の美人なライダースーツの女性が赤いオープンカーに乗ってやって来た。

 ナオミ・ブレーデル。

 後に幾度も奇妙な付き合いをする事になる中だがこの時はまだ達也は思ってもみなかった。


「ま、これも何かの縁だし家まで送ってあげるわ。ついでにドライブでもどう?」


「いや――そこまでは・・・・・・」


「もう、消極的なんだから。まあ折角だから乗りなさい」


 今日はトコトン女難らしい。ナオミに引っ張り込まれる。ヒーローになったとはいえ、元引き籠もりの現代っ子に何らかの訓練を受けている女性エージェント(推定)に力で勝てる筈もなく、何時の間にかテキパキとシートベルトを付けられてそのまま出発進行と相成った。


 そして天井が締まり、車は密閉空間となって発進する。

 見た目は高級そうなスポーツカーだが色々ギミックがあるようだ。


「秘密の会話にはうってつけでしょ?」


「何の会話を?」


「そうね――今日のお礼と・・・・・・それとちょっと色々と話しちゃおうかなって」


「話?」


「例えばそう――貴方のスーツの事とか?」


「スーツ?」


 後から聞いたがこの女性は確か部外者の筈だ。

 それにあの事件からそう時間も経ってない。何でスーツの事を語れるのだろうか。


「そう。ゴーサイバーのスーツは後の軍用の量産化を視野に入れて開発されてる――言わば試験スーツなの。もう説明されてるかも知れないけど、ゴーサイバーにはセイバーVのスーツに蓄えられた戦闘データーがインプットされてるわ。まあ中には例外があるけどね」


「例外?」


「私のスーツもそうだけど、貴方のスーツは特別よ」


「・・・・・・」


 表情も何も変えずにただ静かに達也は車の前に流れる景色を眺めていた。


「驚かないのね?」


「いえ・・・・・・驚いてます。だけど、納得しました。だっておかしいじゃ無いですか。怪人を倒したのだって、大幹部を撃退出来たのだって――」


 車を急ブレーキさせた。シートベルトを付けられてはいるが前に投げ出されそうになる。

 突然何を――と言おうとした途端、ナオミは豊満な爆乳を体に押し当てた。とても柔らかい上に重量感があって、暖かい――そして達也の顔をホッソリとした両手の指で挟んで強引にホッペにキスをした。


「ダメよ。そんなネガティブじゃ」


 と言われても何が何だか分からなかった。

 顔が真っ赤になって目をパチクリさせ、「アワワワワ」としか達也は言葉が発せられない。 


「ボウヤの言う通り、偶然でも――でも、あの時、戦う時、何を願ったの?」


「何を――」


 サイバックパークから皆と避難した後、怪人に襲撃を受けて――

 自然に小さく掠れた声を発した。


「うん?」


「守りたかった――皆を守りたかった――」


「もう答えは出てるじゃない。その気持ちを忘れないでね」


 ナオミは微笑むと運転に戻った。

 

 それからどれぐらいの時間が経っただろうか。

 

 何時の間にか車は達也の家の前に止まっていた。 


「結局言いたい事言いそびれたわね」


「え――」


「だけど長い付き合いになりそうだし、またの機会にね――そうそう最後にこれだけは言っておくわ」


「?」


「防衛隊に気を付けなさい」


「ッ!?」


 聞き捨てならない言葉だった。

 急いで呼び止めようとしたがナオミは投げキッスして去って行った。


「一体どう言う――」


 ワケが分からず達也はただ呆然とその場に立ち尽くした。

 

 その言葉の意味を知る事になるのは当分先になってからだった。

 少なくとも明日、明後日の話ではない。

 変わりゆく日常に馴れるためだったり、様々な出来事の中でその言葉は忘れていった。

 

 この言葉を思い出したのはとある事件――始めて防衛隊の闇を知る事になったあの戦いだった。


 END

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