一先ずの終わり

Side of 桃井 薫


『サイバーボウガン!!」』


サイバーホワイトが、手にしたボウガンで戦闘員を射貫いていく。

 その様子を、注意深く観察するシュタール。


「白いのが、一番マシだな・・・・・・それでも素人臭いがな。あとの三人は・・・・・・ザコばっかだな」


 冷静に戦力を分析するシュタール。セイバーピンクの初陣では、相手にもならなかったが、こちらは、少しは骨があるかと期待していたシュタールは、失望の溜め息を吐くと、右手をヒートブレードに、左手を五連マシンガンに変えると、サイバーホワイトに襲い掛かった。


『!!・・・くっ!』


  猛然と襲い掛かるシュタールに気付いたサイバーホワイトは、サイバーボウガンを連射する。


『嘘!? 効いてないの!?』


  構わず突っ込んで来るシュタールに、たじろぐサイバーホワイト。


『マリアさん!』


  サイバーピンク、サイバーブルー、サイバーグリーンの三人が加勢に入る。


『このぉっ!!』


 威勢良く先頭に立って、エレクトロガンを連射するサイバーブルー。

 サイバーピンクとサイバーグリーンも、サイバーブルーに続いて、エレクトロガンを連射する。


「しゃらくさいっ!!」


 一気に加速するシュタール。

 立ちはだかる三人の少女戦士に対し、赤熱化したヒートブレードを一閃する。


『『『きゃあああぁっ!?』』』


 ヒートブレードが、三人の胸を斬り裂く。

 幸い、強化スーツは破壊されなかったが、蚯蚓腫れの如く三人の胸が焼け焦げる。


『エレクトロソード! ・・・くぅっ!!』


 間一髪で、ヒートブレードを受け止めるサイバーホワイト!


「少しは、やるな――だが、素人だなっ!!」


 シュタールの左手の五連マシンガンが、火を噴いた!


『きゃあああああああああああっ!!!!!』


『マリアさんっ?!!』


 サイバーピンクが叫ぶが、白い強化スーツを蜂の巣にされ、倒れるサイバーホワイト!


『よくもぉっ!!』


  エレクトロガンをエレクトロソードへと変形させて、サイバーブルーが斬りかかる。


「小娘が・・・身の程を弁えろっ!!」


 シュタールのヒートブレードが、サイバーブルーに迫る!


『きゃあっ! きゃあああぁっ!!』


 青い強化スーツが、X字に斬り裂かれ、爆発する!


「おらぁっ!!」


『きゃあああああああああああっ!!!!』


 シュタールの左手の五連マシンガンがサイバーブルーを撃ち抜き、青い強化スーツを砕けいていく。


『あうっ!・・・うぅっ!』


『芳香ちゃん!』


『芳香!」』


 満身創痍のサイバーブルーに駆け寄るサイバーピンクとサイバーグリーン。


「ソイツらを抑えとけ」


  シュタールの指示で戦闘員が控えていていた高射砲怪人スカイシャッターと共に大挙してサイバーピンク、サイバーグリーンに襲い掛かる。


『きゃあっ! ああぁ! よ、芳香ちゃん! きゃあああぁっ!』


『あうっ! うあああぁ!』


『ああぁ! きゃあああぁぁぁぁぁぁ!!』


 多数の戦闘員に取り囲まれ、滅多斬りに斬り刻まれるサイバーピンクとサイバーグリーン! さらに、甚大なダメージを受けて、悶え苦しんでいたサイバーホワイトまでも戦闘員に羽交い締めにされて、斬り刻まれていた。


 その合間を縫うようにスカイシャッターの砲弾が三人に突き刺さる。


「さて、テメェみてぇな身の程知らずは、徹底的に痛め付けてやるぜ!」


 悶え苦しむサイバーブルーに、シュタールのヒートブレードが叩き込まれる。


『きゃああああああっ!!』


  赤熱化した刃が、サイバーブルーの強化スーツを容易く斬り裂く。


『ああぁ! きゃあああぁっ!!』


 反撃もままならず、斬り刻まれるサイバーブルー。


『よ、芳香ちゃん! きゃあああぁ!』


『くっ! 芳香ぁっ!!


 助けようとするサイバーピンクとサイバーグリーンだったが、余りに多数の戦闘員に華奢な身体を斬り刻まれる。


『薫ぅ・・・麗子ぉ・・・ああぁぁぁぁぁぁっ!!』


 サイバーブルーを執拗に、何度も何度も斬り刻むシュタール。


『くっ!』


 エレクトロガンをシュタールに放つサイバーブルー。

 しかし――


「!・・・・・・その程度か?」


 至近距離からの、顔面への不意打ちだったにも関わらず、サイバーブルーの一撃は、シュタールにダメージを与えられなかった!


『あ、ああぁ・・・・・・!』


 余りに違い過ぎる実力差に、負けん気が反転し、恐怖に震えだすサイバーブルー。


『芳香ちゃんっ!』


『芳香!』


  シュタールの左右から、斬りかかるサイバーピンクとサイバーグリーン。


「フン、死ねっ!」


シュタールの両腕に六連装ミサイルランチャーがセットされ、サイバーピンクとサイバーグリーンに放たれる。


『きゃあああああああああああっ!!!!!』


『うあああぁっ!』


  小型ミサイルが、それぞれ六発ずつ二人の少女戦士を撃ち抜き、二人の四肢と胸と腹の強化スーツが爆砕される。


『ああぁ! 薫! 麗子ぉっ!!』


「終わりだな?」


 サイバーブルーに、蔑んだ目を向け、見下すシュタール。


「弱過ぎるな・・・・・・話にならん!」


『あ、ああぁ!』


 サイバーブルーの、破壊された胸部の強化スーツを踏みつけるシュタール! 

 激しくスパークするサイバーブルー! 激痛と恐怖から泣き出してしまう


「フン! 本当に、話にならんな。なくとも、あの小娘は、ボロボロになっても、拷問しても、泣きもしなかったし、諦めもしなかったぜ?」


 シュタールが言う小娘が、セイバーピンクだと思い至ったサイバーブルーは、自身の惨めさに涙する。



 そして今へと至る――


 敵の目的がゴーサイバーその物であったと言う事もあり、何とか飛行機は守りきった。

 しかしその代償はあまりにも大きい。

 マリアも、芳香も、麗子も、そして薫も、ズタボロにされていた。

 普通の職員でさえ無事な者は誰一人としていない。死者が出ていないのは奇跡と言えるだろう。


 シュタールとスカイシャッター、そして戦闘員達の猛攻の前に手も足も出なかった。特にシュタールの強さは次元が違った。それも絶対的な絶望感を覚える程の実力だった。


『イヤ・・・・・・私・・・・・・こんなところで死ぬの?』


『芳香ちゃん・・・・・・』


 戦意を喪失し、死を覚悟する芳香。


『まだ私は死ねないんだ』


『麗子ちゃん・・・・・・』


 そして戦意が織れてない麗子。


『皆・・・・・・逃げて・・・・・・ここは私が何とかするから・・・・・・』


『白墨さん・・・・・・』


 最後にマリアはまだ自分同様に立ち上がろうとしている。

 それを嘲笑うかのようにシュタールは笑い声をあげた。


「貴様達の健闘は褒めてやろう。我達リユニオンの戦闘員、怪人部隊をここまで手こずらせるとは――だが第二のセイバーVになられても厄介だ。ここで死んで貰おう」


(私が守らなきゃ――ここで皆を――)


『もういい!! 逃げるんだ!! 我々の事には構わず君達だけでも生き延びてくれ!!』 


 通信機から知らない男の声――この基地の司令官の叫びが木霊する。


『それはダメ――逃げたらまた、悲しむ人が出てくるんだから――そのために私は力を得たんだから』


 薫はその願いを振り払う。


『何を言って――』


『・・・・・・だけどこれだけじゃダメ――もっともっと、力が・・・・・・力が欲しい――』


 自分に言い聞かせて、まるで自己暗示を掛けているように呟き続ける。


 生命の危機。


 過去の自分への贖罪。 

 

 力への渇望。


 それ達の要素による物か――彼女の願いは現実の物となった。


『な、何が起きてるの』

   

「ッ!? こ、これは!?」


 シュタールはその力が何か知っているようだった。

 見た事がある。

 セイバーV。

 セイバーピンクが見せた天使の羽――。

 そして手に握られているのはセイバーピンクの、あのスカーレットを畏怖させたティンクルソードに酷似した剣が握られていた。アレはサイバーピンクの固有武装「サイバーセイバー」であるがあの光輝く翼はマリアですら知らなかった。


「まさか貴様達!? アレを機械的に再現したのか!?」


 唯一、シュタールだけはその存在を知っているようだった。 


『な、何が起きてるの?』


『分からない――白墨さんは?』


『私も見当がつかないわ・・・・・・あんな機能が搭載されてるなんて・・・・・・』 


 見惚れている矢先、薫が動く。

 彼女自身、自分の身に何が起こっているのか把握しているのかどうかすら怪しかった。

 実際彼女は「とてつもなく力が湧いていて体が軽くなっているぐらい」にしか感じていない。


「撃て!!」


「Ser!!」


 高射砲怪人スカイシャッターは両腕の機関銃、肩部のキャノン砲を乱射。その精度は対航空兵器用に設計されたため、格納庫内ではほぼ百発百中の精度を持つ。事実、その全ての攻撃が薫に直撃した。

 だが、薫はそれ達をマトモに浴びながらも突貫、戦闘員もろとも怪人達を一閃。


「そんな馬鹿なぁああああああああああああああああああああああああ!?」


 たったの一撃で数十体以上の敵を葬り去る。

 続いて剣先をシュタールの元へ向けた。

 

「クッ!!」

 

 力任せの剣技ながらシュタールを押している。あの自分達をここまでズタボロにした大幹部がたった一人の少女の手で防戦一方となっていた。

 

「まさか・・・・・・そんな馬鹿な!?」


 気が付いた時には両腕が薫の手で両断されていた。

 咄嗟にガードした左右の腕が同時に切り裂かれたのである。

 

 だがシュタールの状況判断が素早かった。

 直ぐさま新たな両腕が転送され、バックステップを決めながら二の太刀を振るおうとしているサイバーピンクを吹き飛ばす。


『薫!?』


 格納庫に壁に叩き付けられた薫は一瞬にして窮地に追い込んだあの羽が収まり、そのまま気を失ったのかヘルメットがガクッと右下の地面を向く。

 

 再びゴーサイバーの面々に絶望感が漂う中、シュタールは考える。このまま殺すべきだと。やはり第二のセイバーVになる前に脅威の芽を刈り取らねばならないと――


 だから攻撃を――


『ナオミさん――ありがとう、どうにか間に合った』


『グッドタイミングかどうかは分からないけど、最悪の事態にはならなかったようね』


 その時だった。


 薫のヒーローが登場したのは。

 

☆ 


 Side 楠木 達也


『その声は――貴方達は――』


 マリアは代表して問い掛ける。

 芳香は『だ、脱出したんじゃないの?』と疑問を口にするが麗子は『まさか戻って来た?』と返した。


 三人はその事実が信じられない様子だった。

 

『リアルタイムで貴方達の事が状況が実況されててね、それであのボウヤいてもたってもいられなくなったみたいだからこの電子クラフトで送ってあげたの。初めて使う機能だったから色々と大変だったけどあの戦車で駆けつけるよりかは早く済んだわ』


 と、ここまでの経緯を簡潔に説明してフゥと肩を揺らすナオミ。


「雑魚が二人戻ってきたところで――」


 新たに現れた二人の戦士に目をやるシュタール。

 赤と紫色のスーツを身に纏ったゴーサイバーのメンバー。

 それがここに現れたと言う事はシュタールにとって都合が良かった。


『お前がやったのか?』


「ッ?」


『全部お前がやったのか?』 


「だと言ったらどうする?」


『ぶっ潰す・・・・・・完膚無きまで』


 力強く達也は宣言する。

 今の自分は何かがおかしかった。身体がとてつもなく熱い。自分自身がまるで炎になったかのように。それでいて恐怖を感じない。まるでこの燃え滾る感覚が自然のように思えた。

 今でもグツグツと体の温度が増して行っている。

 だからこんな大口を叩けたのだろうか? 「しまった」とか「調子に乗りすぎた」とか一切頭の中にはない。


 ただ当然のように出来ると言う説明不能の核心が達也の中にあった。

 

「この俺を相手にか? やって――」


 気が付い時には達也はシュタールの眼前まで迫っていた。


「こいつ何時の間に――」


 先程と同じように咄嗟に腕でガードを決めるが――


「う、腕のガードを弾いた!?」――ま、まずい! 攻撃が・・・・・・


 同時に達也の怒りの鉄拳を炸裂する。

 それも一度二度ではない。引き籠もりの貧弱なボウヤとはとても思えない程にとても力強く、体の芯に響く拳が機関砲のように叩き込まれた。

 上空に拳で叩き上げるように殴りまくり、シュタールは慣性の法則に従い地面に落下しようとするが達也が放つ拳のラッシュがそれを許さない。


『うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 肺から全ての酸素を絞り出しているような、渾身の叫びを上げながら連打連打連打。

 シュタールの体が不気味な擬音と共に破壊されて行く。

 やがて最後に大振りの、体の全体重を乗せるような拳を叩き付ける。殴り飛ばされたシュタールはまるでピンボールの球のようにリズム良くバウンドしながら格納庫の壁へと叩きつけられた。


『わぉ・・・・・・ボウヤ、美味しいとこ全部かっさらったんじゃない?』


 これを見た面々は唖然とした。

 あの大幹部にあそこまで激しい攻撃を叩き込む。特に薫達などは信じられなかった。ずっと引き籠もりの生活を続けていたあの少年とは思えない程の見事なラッシュだった。


 思わず(本当にアレは楠木 達也なの?)と薫は疑ってしまう。

  

『はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・』

 

 全ての力を使い果たしたのか、ガクッとその場に項垂れる達也。

 シュタールも彼方此方から火花を吹き散らし、腕は吹き飛ばされ、口からは血を吐き出している。それでも何かに取り憑かれたかのように、不気味な足取りで立ち上がった。足を引きずりながらも這い上がるその姿はまるでゾンビのようだ。


「こ、今回は・・・・・・俺の負けを・・・・・・み、認めておいてやる・・・・・・だ、だが忘れるなよ――おまえ達はこのシュタールが・・・・・・か、必ずこの手で始末して・・・・・・やる」


 ダメージが大き過ぎたのかシュタールは途切れ途切れに、怨嗟の言葉を絞り出す。


『わ、ワープ反応!? 逃げるつもり!?』


「それまでの間、束の間の平穏を楽しむがいい、ゴーサイバーァああああああああああああああああああああああああああああ!!」 

 

 そしてシュタールは青い燐光と共に姿を消失。

 

 同時に達也も地に伏した。


(これで終わったのか・・・・・・?)


 まるで燃え尽きたかのように達也は瞼を閉じた。

 

 第一章END 

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