第二章:戦う意志
あの戦いから後日――
サイバックパークの防衛戦は多大な犠牲を払いながらもゴーサイバー達の活躍で何とか壊滅は免れ、最悪の事態は阻止出来た。
後になって知る事になるが同じく正義の戦隊を作り出していた研究機関はサイバックパークと同じように同時襲撃され崩壊。
生き残ったのはゴーサイバーぐらいであった。
余談だがこの戦いの後、ナオミ・ブレーデルはサイバーヴァイオレットのスーツと共に姿を消した。
元々スパイである事を臭わせていた女性だったため司令官はあまり驚きはしなかったが白墨 マリアなどは納得が行かない様子だったがそれでも彼女が命の恩人である事などには変わりないため、強く批難出来なかった。
この戦いの後、ゴーサイバーの存在は公の元になり、本人達のプロフィールは隠したが人の口に戸は立てられずと言う言葉通り身元を完全に隠しきるのは不可能であろう事は容易に想像出来た。(ここら辺はセイバーVと同じで口伝手で語られるのみである)
そして司令は基地の復旧を進める共にゴーサイバーはセイバーVと同じく地球を守る平和の戦士としての活動を行う事を表明する。
そうして時は流れ――
☆
Side 白墨 マリア
白墨 マリアはハァと溜息をつく。
真面目に通って訓練を受けている桃井 薫、佐々木 麗子の二人はいい。
いやいやながら通ってくれている神宮寺 芳香もいい。
彼女達は元一般人で厳しい訓練を受けさせているのは重々承知だが本来のメンバーの事を考えればそれでも足りないぐらいだ。
マリアは元々研究者畑の人間であるが年長者でリーダーを任されていると言う事もあり、無理をしてでも彼達を引っ張らなければならなかった。正直凄くプレッシャーを感じている。
だがだが遂先日まで引き籠もりだった楠木 達也はリハビリの段階から始めないといけない上に本人自体のヤル気が全く感じられない。何と言うか溜息ばかり吐いて体全体で嫌々やっている事を自己主張しているようだった。
ある意味一番マトモな思考であるのだが、ゴーサイバーの装着者はそう簡単に変わりが見つからないものだ。
一応他のスーツが残っているし国防隊の誰かから選抜する方法もあるが明らかに何処ぞのスパイであったナオミ・ブレーデルの件もあり、候補者の身元を洗い出してから慎重に検討を重ねてスカウトする言う方法をとっている。そのため追加要員が来るのがかなり遅れるようだ。
早い話、今辞められると困るのだ。
また厄介な事にセイバーVと言う実績がある。
セイバーVは女学生五人組の戦隊だ。しかも初の実戦まで戦闘訓練を受けていない素人であり、今日まで戦い抜いたと言う前例があるため、ゴーサイバーもそれで良いだろうと言う考えが出ているのだ。
現に楠木 達也は敵怪人を共同撃破したり戦闘員をかなりの数を倒し、桃井 薫は敵の大幹部クラスを一時的ながら凌いですらいた。
二人ともただの高校生である事を考えればこれは大戦果と言って良い。
だが、これが不味かった。
この戦果に政治的な思惑なども絡んで彼女達は辞めるに辞められなくなくなったのだ。(この辺りはセイバーVの面々と同じである)
白墨 マリアも最近知ったがこの時上層部の面々はセイバーVに対して脅迫紛いの手段を使った前科がある。
酷い時はテロリスト同然の行為も行ったと言われ、これを耳にしたマリアは「人間はここまで汚くなれるのか?」と唖然としたぐらいだ。
「あんな真似さえしなければNEW YEAR WARはもっと違った結末を迎えられたかもしれんのに・・・・・・」
司令官の嘆きが脳内で再生される。
その言葉が何を意味するのかマリアには分かった。
今でさえも内部事情は暗澹たる有り様だ。あの戦争中でさえも――世界の危機だと言うのに人々は一つになれてなかったのだろう。
完全な正解ではないが、ほぼ間違いないように思える。
(さて・・・・・・まぁ、暗い話題はここまでにして)
双瞼を閉じて思考を移す。
主に楠木 達也達の事だ。
本当は地獄の猛特訓を課したいのだが彼女達一般人に突然それをやって戦う前にはヘトヘトと言う状態を避けねばならなかった。
出来ればもう暫くはセイバーVに頑張って欲しいのだが司令――と言うより上層部はゴーサイバーは実戦経験を求めているらしい。
科学者畑の人間であるマリアには何となくだがこの理由は理解出来た。
異界や宇宙の超技術がある中でゴーサイバーはなるべく地球の科学技術のみで作られた戦闘スーツだ。
要するに軍事兵器などに転用するに当たって一番問題無くスムーズに進められるのがこのゴーサイバーの利点である。
恐らく地球防衛隊の中にゴーサイバーのデーターを流用し、自分達の思い通りに動く戦隊を生み出すつもりであろう事は容易に想像出来る。
(だけどそうなったら――)
果たしてその戦隊は正義の味方と言える存在であってくれるのだろうか?
ふとここでナオミ・ブレーデルの事が頭をよぎる。
今でも行方を追っているが、あの奪ったスーツを使って何を行うつもりであろうか?
(――悩みの種は尽きないわね)
ともかく彼達を早く一人前にしないといけない。そう言う意味では元研究職員だった自分自身もそうだ。
マリアは気合を入れ直すようにトレーニングへ励む。
☆
Said 工藤 順作 司令
工藤司令は少年達とのやり取りを思い出す。
(え? 辞める事は出来ないんですか!?)
達也の最もな反応、そこから芳香が(ど、どうして!?)、薫が(私達よりも適任者は大勢いると思うんですけど・・・・・・)と言い、最後に麗子が(薫の言う通り。事情をキチンと説明して欲しい)説明を要求してきた。
彼達のトレーニングに励む姿を窓ガラス越しに眺めながらあの日の事を思い出す。
少年少女へゴーサイバーになる事を強いた生涯忘れられないであろう一日をだ。
(どうしてですか!? 彼達を実戦に投入するつもりですか!?)
工藤司令は防衛隊上層部に意を唱えた時だった。
しかし上層部の面々意見はこうだった。
(彼達は実戦を潜り抜けたのだ。それに敵の大将を退けている。問題は無いだろう)
(それに『あのシステム』を起動させた桃井 薫と言う少女、そしてゴーサイバーの機能を全開まで引き出した楠木 達也)
(ヴァイオレットが奪われたのが残念だが・・・・・・幸いにも思わぬ予算が出来てな。新たなスーツの開発もそれで足りるだろう)
その思わぬ予算とは他の壊滅した戦隊へと配分される筈だった予算の事だろう。
早い話がそれを渡すから言う通りにしろと命令しているのだ。
(まあセイバーVの例もある。唯一生き残った君達なら充分な時間を稼げるだろう)
つまり今のメンバーを捨て駒にしてもいいから新たなスーツを開発し、装着員を探せと言う事だ。
上に立つ人間としては正解なのかも知れないが人間としては憤りを覚えてしまう命令だった。
だが受けざる終えない。
もしここで断れば一体どう言う手段を取ってくるか分からない。脅迫や人質なんて事も考えられる。今脳裏の中で思い浮かべている人間はそう言う連中なのだ。
そして工藤には幸か不幸か戦いを強制させる材料があった。
ゴーサイバーは一度装着させると二度と他の人間には装着させる事が出来ない用にプログラムされているのだ。
変更は不可能。
少年少女を戦いに巻き込まない用にするにはここで有り難く予算を頂戴して新たなスーツを開発し、そして即戦力となる装着者を探し出す。それも短期間の内でだ。それしか方法がない。
が、戦いが無いままその日を迎えるのはあまりにも非現実的に思えた。
ただでさえ国防隊は現状戦力不足なのだ。
そして敵の戦力は強大だ。
間違い無く戦闘へ駆り出されるだろう。
だからこうして、心を鬼にして戦闘訓練を積ませている。
恨んでくれてもいい。
罵ってくれても構わない。
だから死なないで欲しい。
NEW YEAR WARの二の舞はもう沢山だ。
司令はそう思わずにはいられなかった。
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