第50話 赤狼の残穢
白と別れ日向は探索者通りを歩く。活気に溢れた街並みには目もくれず一人奥へ奥へと歩みを進める日向はある目的で白と別行動をしている。
「お父さんにお薦めされたお店って……これ?」
子猫の憩い亭すら追い越して進んだ先、店もほぼ無く住宅街にポツンとある店、いや小屋だろうか。おおよそ日向の目的が果たせるとは思えないが尊敬する父の勧めなのだからとその小屋に入る。
「いらっしゃい、はじめまして」
中に入ると本当に店とは思えなかった。見て回れるような広さは無く、そもそもとして商品すら置いていない。店番にはくたびれた男が座っている。紺色の浴衣のような服をだらし無く着崩している。
「ここ、煉炭堂で合ってますか?」
小屋の中に一人いる店員?に話しかける。お父さんからは変人だが腕は確かだと聞いている、確かにこんな場所で店を開いているなら変人だ。外には看板すらなく商売する気がない。
「あぁ……ここが煉炭堂で俺がここの主人だ。で?何のようだ、ガキの武器なんざ外の武器屋で十分だろ。どうやって嗅ぎつけたかしらねぇがな。」
酷くめんどくさそうに遠回しに出て行くように言う店主に私はあらかじめ教えられた言葉を伝える。
『屍山血河、例え同胞の血でさえも薪にくべよう』
「チッ、そう言うことかよ……ん。」
お父さんから教えてもらった合言葉、ただでさえ外からの客など来ない店に必要なのか知らないけど店主は頭を掻きながら私に手を出す。
「えっと?」
握手かな?
「ちげぇよ、素材だよ素材!その手に持ってる素材を寄越せって言ってんだ。」
「あ、はい。」
店主に手を振り払われてちょっと恥ずかしくなりながら袋を渡す。
「ったく、俺の元によこす
「何ですか?」
袋の中身を見た瞬間、店主の顔はくたびれた中年からまるで戦場にいるかのように変化した。
「これをお前に託した馬鹿野郎は何処のどいつだ。」
「それを知ったとしてどうするんですか?」
「出禁だ。見たところお前はなりたてだろ。そんな奴にこんな素材で武器を作れなんて言ってくるやつなんか俺の武器を握る資格なんてねぇ。」
(!?何、この圧!)
店主から発せられる迫力に私は驚く。まるで地獄の底から来るような冷たいようで熱い異様な雰囲気がする。
「誰だ」
「黒音豹牙、私の父です。」
「そうか、仏壇を用意しとけ。坊主もな。今日がやつの命日だ。」
お父さんとはまた違った迫力を纏った店主が立ち上がる。おそらく私では全く勝てない。
「待ってください、この店を紹介したのは父で、素材を貰ったのは確かです。でも、瀕死まで持って行ったのは私と仲間です。その素材は私の私たちの正当な報酬です。」
「あぁ?………手ぇ出してみろ」
「手、ですか?」
さっきとは違って私の手を掴んだ店主は「そうか」と言って圧を引っ込めた。
「ついて来い。」
「あの……?」
店主は床にある隠し扉を開いて地下に歩いて行ってしまう。
「行くしかないか……」
店主について行って地下を降りて行く。周りは荒削りな石の地下で魔石の照明が仄かに灯っているだけで薄暗い。壁に手を当てながら降りて行くと開けた場所に出た。
「うわぁ………!」
言葉が出ない。
鍛冶場だと言うのは見てわかる。金槌が金床が炉がある。だが、私が言葉を忘れたのはそんなことではなく。
「これ、全部、あの人が……」
煩雑に置かれた武具の数々。その全てからあの赤狼と同じかそれ以上の圧を感じる。
「早く来い。そんなカスなんぞ気にしてんな。」
「カス!?こんな凄い武器が!?」
「………なら、持ってみろ。」
店主は適当に拾った長剣を私に手渡す。
(この武器をもしあの時持ってたら私も)
「ほら、切ってみろ。」
店主は巻藁の代わりに石を持ってきた。普通なら石なんか切れないと言うところだけどこの剣は難なく切れると感じる。
「ハッ!」
両断。
予想通り切れた石。
予想外に粉砕した剣。
「え!?ご、ごめんなさ」
「諸刃の剣ですらねぇ。一太刀すりゃあ役目すら果たさずに壊れて行く剣なんざカスだ。いいから来い。」
粉々になった剣には気にも止めずに奥の作業台に素材を置いて座る。
「何か、聞きたいことは?」
意外にも私の疑問に答えてくれそうな店主に質問する。
「あの剣が壊れることを知っていたみたいですけど何で壊れたんですか?私の使い方とかじゃなくて何であれ切ったら壊れるように聞こえました。」
店主はさっき一太刀と言った。なら石だろうと巻藁だろうと……魔物だろうと一度切ったら壊れるのか。
「俺の作る武器はそこらの武器屋が作るものとは違う。武器は意志を持つ。作り手の意思、使い手の意志、そして、素材の遺志。だからこそ、武器は成長する。」
「
「そうだ。そこのカスは素材の遺志が足りねぇ。やる気のない奴は消滅する。魔物は死んだら消えんだろ。」
そうだ、粉々になったあの剣は跡形もなく消えた。あれは魔物が消滅した時と同じだった。
「何だっていい。強くなりたい、生きたい、殺したい、愛したい、守りたい、そんな心があのカスにはこもってねぇ。その点、この素材は良い。遺志どころか呪詛レベルで残ってやがる。」
「呪詛……」
まるで二度もあった赤い狼は同じ個体だったのではとすら思う。一度目は白ちゃんが倒したらからそんなわけないとはわかっているが。
「こいつは確実に良い武器になるだろう。俺もこいつを武器にしたい。だが」
店主はそこまで言いかけて私の胸を指差す。
「お前の意志はどうだ?こいつの遺志に負けないくらいの強い意志はあるか?」
後書き
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