第32話 無理ー。

「森を抜ける前に休息をとろう。」

 強面こわおもてが、皆に声をかける。


 少し開けた場所に出たので、ここ意外に休息できる場所はないと思えた。

 もうすぐ森を抜ける。


 アランは、馬車を降り立った。

「なんか腹減ったな。」

 アランは、大量の干し肉をオッサンに持たされたことを思いだした。

 すげー貰ったんだよな。


 アランは、カバンに手を突っ込み、オッサンから貰った毛皮の袋に入った干し肉を掲げる。


「みんな、食べたい奴がいたら食ってくれ!」



「……えぇー!俺、無理ー!」

 どよめきが起こった。


 アランは、スタンを掲げていた。


 えぇぇぇー!なんで!

 アランは、びっくりしたが、冷静に対処した。

 俺は特級魔法使い。


「いや、これは間違いです。こっちです。」

 アランは、カバンからまた袋を出し掲げた。


「殺すぞ、てめえ!」

 今度は、ハンターのドスの効いた声。


 アランは、ボッサを掲げていた。


 ……えぇぇぇー!


 アランは、冷静を装い、ボッサを下に降ろす。


 カバンから毛皮の袋を4袋、回りにいた者に押し付けるように渡した。

「とっ、とにかく、これだ。」


 とりあえず、みな毛皮の袋と干し肉に夢中になってくれたようだ。



 アランは、皆から少し離れた所であぐらをかいて地面に座った。


「スタン!ボッサ!ここに座りなさい。」

 アランは、怒った口調で人差し指を地面に向けてとんとん叩いた。


 アランが腕組みして待っていると、スタンが歩いて来て、アランのあぐらをかいている足の上に、丸くなってくつろいだ。


 ちげーよ。


 ボッサは、スタンのせいで座れず、アランの足に前足をかけ、どうやったら自分も足の上に座れるかを思案しているようだ。


 ちげーよ。


 アランは、2匹を前に座らせると、指を振りながら説教した。


「お前たち、俺は怒ってるんだぞ!」


 スタンとボッサは、アランの指をはむはむしだした。


「……なんだよ。腹減ったのか。」


 アランは、カバンから、皿を出し、カリカリを入れてやる。

 水の入った皿も置いてやると、スタンとボッサは、夢中で食べ始めた。



「……もうー。」

 アランは、スタンとボッサの頭をなでた。


「結局、連れて来たのか。」

 強面こわおもてが、アランの前を通りかかった。


「登録証の店のオッサンに預けたのに、何故かカバンに入ってたんだよ。」

 アランは、不思議そうにスタンとボッサを見た。


「討伐が終わったら、料金返してもらえよ。」

強面こわおもてが呆れて笑ってる。


「あぁ、もちろん。」


 強面こわおもては、干し肉を貰いに行ったようだ。


 いくら大量に干し肉をサービスされたからって、返金してもらうぞ。まったく。

 しかし、死んじまったら、どうすんだよ。


「カバンの中に、しまっておくかー。」

 アランは、基本、後ろから戦況を見るつもりなので、前線では戦わないつもりだが、万が一を考えると心配だった。


 スタンとボッサは、食べ終わると2匹で、森の中へ。


 連れションかよ。


 土を掘っている音がする。


 2匹で、戻ってくると、何やら、ちょっと走ったり、2匹で向かい合って、やんのかコラァみたいな感じになったり。

 また、凄い勢いで走ったり。

 意味不明な動きをしている。


 食って出したので、ハイテンションらしい。


 アランは、ため息をついた。


「……う◯こハイだな。」


 2匹は、まだ、やんのか、やんのかとステップを踏んでいる。



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