第23話 嫌な予感

 州都散策は、観光地として有名なところに行ってみた。


 なんと言っても、統治者が住む宮殿だ。


「おいおい、何人家族だよ。」

 四人家族が住む大きさじゃないよね。


「スタさん、ボッサ、知ってるか?ここのお嬢様たちは、美人姉妹で有名なんだぜ。婿選びは、賢くて強い男なら身分は問わないらしい。スタさん、王子様に戻れるかもよ。」

 スタンは、柵にしがみつき、登ろうとした。


 ひぃー、殺される。


「ダメだからー。王子様じゃないでしょう。」

 慌ててスタンにしがみついた。

 まったく、……人間になりたいのかな。


 次は、宮殿の裏手にある庭に行ってみるか。

 ここは、観光客も入場料を払えば入れる。


 ペット、魔獣可だ。

 さすが、魔獣好きだ。

 統治者は、元ハンター。つまり彼も婿。


「凄いな。スタさん、ボッサ。さっきまでいた街から急に野原になった。」

 もう、すでに庭ではないだろう、これ。

 見晴らしの良い野原。宮殿への後ろからの攻撃は、これでは難しいだろうな。丸見えだ。


 ……しかし、むさ苦しいな!

 野原に、大量のハンターと魔法使いなどがわんさかいる。

 この野原と合ってねー。


 なに!いったい。


 皆、同じ方向見ているし。

 んっ、立ち上がって手を振り始めたよ。


 アランは、後ろを振り向き、皆が手を振る先を見た。


「……あれが、噂の美人姉妹かー。」

 遠くて良く見えないけど……。


 姉は、絶世の美女になるんじゃないかと言われている17歳、妹は、めちゃくちゃ可愛いらしい15歳。

 きっと、性格悪いに決まってる。


 アランは少々偏見気味だった。


 美人姉妹が、手を振ると男たちの興奮のどよめきが起こる。


 あっ、やべぇ!

 スタンとボッサが、宮殿に向かい勢い良く駆け出していた。

 何でだよ。


 アランは、手で何かを投げるようにすると、綺麗な輝く鎖状の光りがスタンとボッサを捕まえる。


「はい。リードの出来上がりー。」

 スタンとボッサは、急に止められ、まるでバク転するみたいにひっくり返ってる。

 アホですねー。


 お嬢様方がきゃっきゃ、きゃっきゃと笑っている。


 つかみはオッケー。


 いかん、むさ苦しい男たちから、恐い視線を感じる。急いで退散しようっと。


 アランは、庭を散歩することにした。


「おい、お前たち、急に走り出すなよ。もうずっとリードだからな。見てみろ、リードされている魔獣なんかいないんだからな。ぷぷっ、恥ずかしい奴らめ。」

 しかし、スタンとボッサは、全然気にしてないようで、魔法で作ったリードをされたまま2匹で意気揚々と前を歩いている。


 聞いちゃいねー。


「庭の端に、カフェがあるぜ。」

 アランは、スタンとボッサを追い越して、急に走りだした。

 そのため、スタンとボッサも、慌てて走り始めた。

 似た者同士。


 アランは、メニューにかじりついた。

 また、写真が使われている。

「何これ!3段!?」


 店の男性に案内されて、アランはテラス席に着いた。

 すぐに、ガラガラと3段トレイがやってきた。


 本日は、キュウリとエッグサラダのサンドウィッチ、プレーンと紅茶のスコーン、ケーキは3種類。ショートケーキ、キャロットケーキ、チョコレートケーキ。

 と店の男性が説明し、紅茶を注ぐと立ち去った。


 アランは、冷静に礼を言いながら、心の中で拍手喝采を送っていた。


 なんて素晴らしいものがあるんだ。

 このトレイ欲しいなー。

 アランは、目を輝かせ、3段トレイを見ると、隣の席が見えた。


 そこには、同じく3段トレイのケーキに手を伸ばす強面こわおもてがいた。


 思わず、会釈。

 良く会うな。


 幸せな気持ちで3段トレイの下から堪能していく。

 サンドウィッチは、シンプルだか、旨い。

 そして、アランは、スコーンとやらを初めて食した。

 クロテッドクリームとイチゴジャムがまた凄い美味しい!

 何これ!最高じゃん。


 アランは、目を閉じ幸せに浸っていると、隣から、強面が話しかけてきた。


「お前も、討伐に行くのか。」


 討伐?


「いえ、ただの観光です。」

 アランは、幸せ過ぎて薬草探しのことも忘れて観光と答えていた。


「そうか、小さい子を連れて行くのは、今回は危険だから、忠告しようと思っただけだ。」

 小さい子?

 あー、ボッサとスタンね。

 幾らなんでも無理でしょう。見て、このニゲル種、ずっと俺の足に前足かけて、俺のスコーンから目を離せないでいるんだから。

 スタンは、隙あらばテーブルに乗ろうとするし。

 魔獣退治なんて、とんでもない!


 しかし、討伐?


「討伐とは、魔獣退ではなく?」


「あぁ、大規模な魔獣討伐だ。知らないのか。これだ。やるから読んどけよ。俺たちは、当然勝つが、予想外はある。倒しもれした魔獣が街に来ないとも限らない。」

 アランは、強面にもらった紙を見た。


 しばらくすると、強面は、店を出ていった。


 アランは、頭を抱えた。


 嫌な予感しかしねぇー。


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