第21話 ここは止めておこう

 アランは、街の散策を続けるため、守衛だまりに到達。


 2箇所目のどでかい城壁だ。州都に馬車で来た時の最初の城壁はシンプルだったが、こちらは城壁を大きくふたつに分けて、くり抜いている。

 真ん中は、守衛の詰所になっていて、上の城壁は窓があるので、事務所や守衛の仮眠室かもしれない。



 うーん、人が凄いな。

 やっぱり州都だと、人の多さが尋常じゃないな。


 一応、荷物の多い人と少ない人で分かれているし、業者やハンターなど州都の仕事をする人なんかも分かれているみたいだ。

 俺も魔法使いだから、ハンターたちと一緒に並ぼう。

 おや、強面こわおもてがいる。

 軽く会釈する。あの人、話し下手なんだな、きっと。

 ああいう人は、嫌いじゃない。


 魔法使いの登録しているから、守衛とのやり取りはあっさりしたものだ。


 そして、ちょっとした回廊のようになっている城壁を通り抜けると。


 まさにこれぞ州都!


 急に、華やかになった。

 スタンとボッサが、興奮気味だ。

「おい、興奮して粗相するなよ。高級毛皮になったんだから、堂々としろ。」

 アランも、なんだかワクワクしてきた。


 しかし、さすが州都だな。

 カフェが立ち並ぶ中で、外のテラス席には、何やら客ではない人が、魔獣を連れて座ってお茶してる。仕事がらアランやハンターなど気付く人もいるが、厄介なお尋ね者が入って来た時に対処するエキスパートな人達だ。

 こっそり任務中ね。



 しかし、こんなにカフェがあったら、どこに入るか迷うな。


 アランは、行きは左側を覗きながら歩いて、帰りは右側を見ることにした。


 うーん、本当に悩むな。

 どこも写真を使ったメニューを、店の前の看板に貼ってるよ。

 写真ってすげぇーな。

 どれも美味しそう。

 とりあえず、テラス席なら魔獣やペットを連れていても大丈夫そうだ。


「おー、老舗な感じのカフェ出てきたよ。すげぇー高そう。」

 気品があって、店の人もテキパキと働いている。

 お茶しているおじさんも、品格があるなー。

 って、やべぇ。

「スタさん、ボッサ、行くぞ。急いで!」

 アランは、出来るだけ小さい声で、顔を隠しながら先を急いだ。


「アラン。」

 老舗のカフェにいる。品格のあるおじさんから呼ばれる。


 ひぃー、見つかった。


「あっ、お久しぶりです。会長。」

 アランは、仕方なく、いかにも今気が付いたように話し出した。

 今日は、げんなりする日だな。

 こういうのって続くよね。



「久しぶりだな。私を見て逃げ出そうとしているのかと思ったよ。」

 品格のあるおじさん、魔法協会の会長さんは、テラス席に座ったまま、アランに話しかける。

 アランは、仕方なしに近づいた。


「せっかくお茶しているのに、邪魔でしょう。」

 相変わらず紅茶好きか。

 アランは、さっさと立ち去りたかった。


「何、みんながどっか行ってほしそうなんで、こうやって、外に出てお茶をしているだけだ。そっちこそ、散歩中に悪いな。ただ、近々、君には喜ばしい話がくるだろう。楽しみにしたまえ。では、良い1日を。」

 紅茶のカップを掲げた。


「……ありがとうございます。では、会長も良いお茶タイムを。」

 アランは、一礼して急いで立ち去った。



 喜ばしいなんて、どうせ、ろくなことない。


 なんか、今日は、ろくなオッサンに会わないなー。


「スタさん、ボッサ、今日は、オッサン見たら逃げるか。」

 アランは、笑いながら、また、街の散策を進めた。



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