第16話 ご飯にしよう

 夕刻に州都に着いたので、窓の外は、だいぶ暗くなってきた。


「腹が減ったな。スタさん、ボッサ、街に繰り出すか!」

 アランは、まずは、腹ごしらえをしようと宿屋のカウンターへ向かった。

 一応、魔獣連れでも入れる店をチェックしとこう。


 カウンターに行くとまた色っぽいお姉さんがいた。


「この辺で、魔獣を連れて入れて、美味しいオススメのお店はありますか?」


「あら、一番だけど、そうね、2番目なら、前の大通りを真っ直ぐ行くと大きな噴水があるの。その側にニゲル種の絵が看板に描かれたお店も人気ね。噴水のところまでは、どこも魔獣を連れて入れるわ。でも、美味しいと言ったら、一番だけど。」

 お姉さんは、自分のところのお店を猛烈にアピールしてウィンクした。


 だよねー。


「ありがとう。そうだね、今日は一番の店にするよ。」

 今日は、もう暗くなってきたし、明日、街を散策しようっと。


 アランは、宿屋から続く短い廊下をぬけて店に入る。


 うわっ、小綺麗だけど、むさ苦しい。


 さすがハンター。ガタイの良い男だらけだ。

 ん、でも、女性のハンターも結構いるな。

 やっぱり小綺麗だから、女性ハンターに人気なんだな。


 宿屋と一緒で、食堂も広くて小綺麗だ。


 やっぱり家族経営だな。

 カウンターにいたお姉さんに似ている人がいる。母親と姉妹かな?が2人、それに男手が3人いる。


 空いている席に座るとすぐに、ショートカットの女の子が来た。


「メニューよ。今日のオススメは、クリームシチューと鳥のむね肉を使ったチキンカツのセットよ。それとお酒なら、うちの地ビールが最高よ。」


「そうだな。初めてだから、君のオススメにするよ。」

 アランは、笑顔で注文する。


「ありがとう。本当に美味しいから堪能してね。」

 女の子は、ウィンクすると、ピンクのTシャツにショートパンツのお尻をふりふり厨房に向かった。


 可愛いな。

 ピンクのTシャツは、店の制服か。

 厨房でおっさんも着ている。


 まずは、地ビールが運ばれてきた。

 アランは、渇いた喉を潤した。

「ぷはー、生き返るー。」


「はい、お待たせ。クリームシチューと鳥のむね肉を使ったチキンカツ。それとパンはおかわり自由よ。」

 丸いパンが、かごに大盛に盛られている。


「ありがとう。魔獣のご飯もお願いしたいんだけど。」

 アランは、スタンとボッサを指さす。


「可愛いー!今日は、チキンだけど。大丈夫かな?小さく切るわね。わー、可愛いー!普段大きなニゲル種しか見ないから、嬉しい。もう、こうしちゃう。」

 ショートカットの女の子は、ボッサとスタンをくすぐるように撫でまわす。


「なんか、おとなしいわね。緊張してるのかな?すぐご飯持ってくるね。可愛いー。」

 君も可愛いよ。アランは、女の子の後ろ姿を見ながら、また地ビールを飲んだ。


 アランは、クリームシチューをスプーンで口に運び、幸せそうに顔をほころばせ、鳥のむね肉のフライで最高の笑顔を見せた。


「うまい!」

 なにこれ、幸せにする魔法かなんか使ってんの。まるごと入った玉ねぎが柔らかくて甘味をだしているし、じゃがいも、人参、ベーコン、カリフラワー、ブロッコリー、そして牛乳がすべてを調和して、上にかけられた生クリームが芸術的。最高じゃん。


 鳥のむね肉を使ったチキンカツも、衣はサックサクで、なかは、しっとりジュワーッとして、美味しい。


 アランが、食事に狂喜乱舞する横で、ボッサとスタンは静かだ。


 アランは、足元を見た。


 しかし、本当におとなしいな。

 なんだ?

 いつもなら、俺にも食わせろと興奮状態で手がつけられないぐらい騒がしいのに。


 さっきまで、女の子に撫でられ腹を見せてたくせに、今は、ボッサボサになりながら、妙に気どった感じ?

「おい、ボサ毛ども、どうした?具合でも悪いのか?」


 ボッサとスタンは、ただ目の前を見つめている。


 アランが見ると、ハンターの横で横になり休むニゲル種も、ボサ毛どもを見ている。

 大人のニゲル種は、デカくて、落ち着いていて迫力のある姿だ。

「カッコいいな。」

 思わずアランが呟いた。


 ボッサとスタンは、目の前の大きなニゲル種と同じ格好をして、しっぽをパタン、パタンと同じように動かしている。


 ははーん、そういうことか。


「なーに張り合ってんだよ。どう見ても、お前たちは、お子さまなの。」

 アランは、スタンとボッサの頭を撫でた。


 子供もは、大人の真似をして育つ。


 コイツらも成長途中だ。


「しかし、スタさん、お前は、ヘナ種だぞ。」


 スタンは、今、気持ちだけはニゲル種になっているようだ。


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