第15話 王子様

「州都に到着!」

 と言っても、馬車は門に入ったところまで。

 もう少し華やかなところまで、早く行きたい。

 アランは、そそくさと馬車を降りた。

 ハンターふたりが何か言いたそうに見ている。


 スタンとボッサを預かってくれた女の子がアランの前に来た。

「お兄ちゃん、ありがとう。」


「どう致しまして。」

 アランは、女の子の頭を撫でると、宿屋を探しに向かった。


 宿屋探しは、ボッサが加わったことでさらに厳しくなった。

 スタンなら、子猫と勘違いしてゲージに入れるなら泊まらせてくれる宿屋はあった。


 やっぱり、ハンター専用の宿屋に泊まるしかなさそうだった。

 一応お子さまとはいえ、ニゲル種だから、色々壊し兼ねないと言う理由だ。

「まだ、お子さまなのになぁ。」

 アランは、ボッサの頭を撫でた。


「さて、中くらいな宿屋にするか。」

 あんまり安い宿屋だと、面倒そうなハンターが居そうだ。あの馬車にいたハンターみたいのが。

 かといって高級な宿屋だと、こっちが萎縮する。



 ハンターの宿屋は、門に近いところが多い。

 皆、相棒の魔獣を連れているから、魔獣を良く思わない人がいる、街中を嫌う。



「あの宿屋、良さそうだな。結構キレイじゃん。」

 宿屋の前には、剣と剣が交差している看板。

 これがハンター専用の宿屋の目印だ。

 作りは、宿というより兵隊用の官舎に似ていて、味気無い。



 アランは、この少し小綺麗なハンター専用の宿屋に入った。


「すみません。部屋は空いていますか?」


 カウンターにいた人が振り向くと、若い女の人だった。


 女性はピンク色のタンクトップ姿で、鍛えられた左腕をカウンターの上に乗せると、その腕に乗せられた左側の胸が押し上げられ谷間が深くなり、思わず目がいく。


 いかん、いかん。


 彼女は、微笑むと、

「いらっしゃい。お一人様?」


「あー、魔獣の子が2匹いるけど……」



「可愛いー!」

 お姉さんは、急に大声を上げた。


 カウンターの上で、スタンが子猫サイズで腹を見せている。


 ……あざとい。だが、掴みはオッケー。グッジョブ。


「この子の名前は?」

 お姉さんは、スタンにメロメロだ。

 下では、ボッサが僕もカウンターに上がりたいと2本の足で直立している。


 名前か……きたよ。

「……妹がつけたんだけど、スタンだよ。」

 アランは、渋々答える。


「あら、王子様ね。私のキスで魔法がとけるかしら?」

 止めたほうがいい。そいつ、朝、ケツの穴舐めてましたよ。


「あー、部屋は……」


「あ、ごめんなさいね。空いているわ。はい、これが鍵ね。朝食は、隣の店に行けば無料よ。店でその鍵見せて。そこから行けるから。」

 宿屋と隣の店は繋がっているらしい。

 家族経営かな?

 アランは、宿帳に名前を記入し、鍵を貰うと、部屋に向かった。


 宿屋の入り口とは反して、結構な広さのある建物だった。

 庭があり、大型な魔獣も入れる小屋がある。


 やっぱりいい宿屋じゃん。

 中も小綺麗な部屋だし、当たりだ。

 なんと言っても、風呂が広い。

 やっぱりハンターと言ったらごつい奴多いからな。


 こんなに広いなら、スタンとボッサを風呂に入れたい。


 アランは、スタンとボッサを見る。

 スタンは、子猫サイズのままだ。


 スタンの名前を、アランがいつも妹が名前をつけたと前置きするのは、有名な童話のせいだ。


 悪い魔法使いに、魔獣にさせられたスタン王子を優しい女性が助け、キスによって魔法がとけ、イケメン王子様に戻るって話しだ。


 キスで魔法はとけねぇだろう。



 もちろん、妹はその童話からスタンと名付けている。

 いつの間にか、王子様が出来の悪い弟になったが。

 本当に可哀想なスタン。



「スタさん、……お前が本当に魔法で魔獣にされている人間だったら、俺は、すっごく気まずいからな。……いままでどれくらいのもふもふ行為や、オデコにチュッチュッ行為したよ。……うら若き男だったりしたら、本当に気まずい。……そんな気ないけど、本当に困るからな。」

 アランは、スタンに長々話す。



「えっ、何?」


 スタンが、体を丸め、火の玉を吐き出す時のような姿になる。


 力を込め、何か……、何かに……、まさか!


「……スタさん、 やめてくれ、……まさか、……心の準備が……。」


 アランは、思わず顔の前に手を上げ、スタンを見ないようにする。



「……って、伸びかよ!」

 スタンは、伸びをしただけだった。びっくりしたな。



「……えっ、お前も……」

 ボッサが、体を丸めて力を込めている。

 …って、伸びかよ!



 最近、ボッサは、スタンの真似ばかりしている。




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