第8話 勇敢

 目の前の魔獣に、アランは、容赦なかった。


 一度、人を襲った魔獣は、人を狙って町に現れる。人を敵だと認識した魔獣は厄介だ。


 魔獣の子の手当ても、早くしなければ。

 時間がない。


 アランが片手を前に出すと、地面から火柱が上がり、火柱は瞬く間に銀の杖に変わった。


 アランが、銀の杖を地面に強く打ち付けると地面を這うように炎が魔獣へと襲いかかった。

 激しい炎が魔獣を包み込み、魔獣が雄叫びを上げ苦しみながら、大きな音を立てて倒れた。

 炎は、小さな竜巻となって雄叫びを上げる魔獣ごと消え去った。


 アランが杖を離すと、銀のきらめきを残しながら杖はゆっくりと消えた。


「早く手当てをしないと。」

 アランは、スタンの元に駆け寄ると、地面に横たわる小さな魔獣の子の側に膝をついた。


 魔獣の子は、苦しそうに息をしていた。

 うっすらと目が開いているが、虚ろで何も見えていないのかもしれない。


 魔獣の爪で大きく抉られた傷から大量の血が流れ出ていた。

 魔獣の爪の傷だけではなく、吹っ飛ばされた時の打撲も心配だ。打ち所が悪ければ、死や麻痺などもあるだろう。


「とりあえず、さっきの薬草は大いに役立つな。大量に採取して良かった。」


 アランは、傷を治していく。

 打撲も大丈夫。魔法で治せる。

 あとは、神経系が無事でありますように。


「スタさん、また怖いのが来るとヤバいから移動しよう。」


 アランは、魔獣の子を防御壁で囲って移動することにした。

 透明な箱が空中を移動する。

 アランやスタンが抱いて移動すると、傷が痛むかもしれないし、致命傷を与えかねない。

 今は、体を休めることが大事だ。

 透明な箱で、ぐったりと横たわる魔獣の子を心配そうにアランとスタンは見た。


「スタさんが、ずっと後ろを見ていたのは、この子がついて来ていたからだな。……俺たちが畑に来ないから、この子は俺たちを探してたのかもな。」


 アランは、畑で待つ魔獣の子を想像した。


 この子も、スタンと一緒で親がいないのかもしれない。


 俺たちの匂いを追って町の近くまで来て、もうひとつの森に向かう、俺たちの匂いを見つけて追って来たのかもしれない。


 ニゲル種は、ハンターが頼りにするぐらい鼻が利く。

 危険地帯だと分かってただろうに。


「……まったく、ニゲル種は、勇敢だと言われるが、無謀だろう。」

 アランは、呆れながらそっと防御壁の中へ手を入れる。


「俺がお前の主なら、……誉めずにはいられないな。」

 アランは、優しく魔獣の子を撫でた。


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