第3話 出たー!

「おい、モフモフ野郎!」



 森に入るとすぐに、スタンは、子猫サイズになりアランの肩の上に乗っている。

 カバンの肩かけにしっかり爪を食い込ませバランスをとっている。


「なんで耳が寝ているんだよ。」

 スタンは、森の奥に進むとかなり緊張気味になった。

 確かに、町の反対の森より暗く、ひんやりした空気が怖い雰囲気をかもし出している。


「それに……」

 アランは、さっきから少しばかりの魔法を感じとっていた。


「うーん、どうしようかな?」

 アランは、首をかしげた。


「なんか拒否られている?それに……」

 アランは、辺りを見回した。



「ぎゃー!出た!」

「ふにゃー!」

 アランは、叫び、スタンも鳴いた。


「誰が出たじゃ、失礼な!人を幽霊みたいに言いおって!なんと!お前には、受難の相が出ておる!」


「出てねー!」

 アランは、へなへなと座り込みながら思わず言い返した。


 アランの目の前には、童話に出てきそうな魔女がいた。

 間違いなく魔女だ。

 森の魔法は、この人だろうとアランは、腰を抜かしながら思った。

 アランは、怖い系が苦手だ。


「脅かさないで下さいよ。寿命が縮みますから。」

 アランは、ホッと息を吐いた。


「……うん、すまなかったね。」

 魔女は、こっちこっちと手招きして、歩き出した。


 アランは立ち上がり、魔女と距離をあけながら、恐々着いて行った。


 失礼だが、ボロい小さな小屋にたどり着いた。

 魔女は、振り向くと、

「とって食ったりしやしねーよ。」

 そう言うと、扉をあけて小屋の中に入って行った。


 まだ、アランは恐々しながら扉の中を覗いた。


 中は、失礼だが、綺麗に整理整頓された、女性らしい部屋だった。


 アランは、勧められるがままに座ると、テーブルにお茶が出された。

「どうぞ。」

 柑橘の香りのする紅茶のようで、アランは、ホッと一息ついた。


「とても美味しいですね。」

 アランは、爽やかな気分になった。


「裏になってる果物を使っているのさ。季節によって色々と楽しめるよ。」

 魔女が、椅子に座ると、同じようにお茶を飲んだ。


 スタンには水が出されていて、凄い勢いで飲んでいる。


 どんだけ喉渇いてんだよ。

 アランは、呆れながら、スタンを見て、魔女に視線を戻した。


「失礼ですが、この森におひとりで暮らしているのですか?」


「あぁ、1人だよ。いつか王子様が迎えに来るのを待っているのさ。」


 アランは、紅茶を吹き出した。

「……失礼。」


「お前さんは、何しに来たのさ?」

 魔女は、気にすることなく、またお茶を飲んだ。


「薬草を探してまして、この辺りにはどのような薬草を見つけられますか?」

 アランは、町で色々聞き込んだが、これと言って珍しい名前を聞けなかった。

 だが、皆の話は全て反対の森の話しだ。


「さぁねぇー、森の奥は危険だよ。私も奥には行かない。……人が入っては駄目なところってもんがあるのさ。人は図々しいから、他の者の領分を荒らす。……人のことは言えないがね。」

 魔女は、くっ、くっと笑うとまたお茶を飲んだ。


 魔女は、アランをじっと見つめる。

「それでも、行こうという顔だね。……しょうがない。」

 魔女は、魔法でペンを動かし、さらさらと書き上げると、アランの元に紙が飛んで来た。

「簡単な地図だよ。持って行きな。バツ印は行かないことだね。命の保証は出来ないよ。」


「ありがとうございます。」

 アランは、立ち上がると扉の横に、小さな収納棚があるのに目を止めた。

 女性が持つには不似合いな大きめな剣と盾が置かれていた。その前には、果実とグラスに入った果実酒だろうか、が置かれていた。


 アランは、お茶のお礼に薬草を多めに渡した。この地方では、採取できないもので、痛み止めとして良く効くものだ。

 町に行けば買えるが、魔女は、町には行ってないような気がした。


 小さな赤い実のついた枝が部屋の奥にたくさん吊るされている。

 赤い実を乾燥させ、噛み続ければ、あれも痛み止めになるが効果は薄い。


 病が何なのか、僕は医者ではないので分からないが、僕が渡した薬草が、彼女の痛みを和らげてくれると良いけれど。



「無理をしなさんなよ。」

 魔女が手を振る。


「お互いに。」

 アランも笑顔で手を振り返した。


 この地方は、昔、大きな戦いがあったと町で聞いた。

 州の要請に逆らえず、多くの男達が戦いに送り込まれた。

 戦いは長引き、休戦したのち、そのまま終戦となった。

 お互いに戦う者が少なくなったことで、終止符を向かえた酷いものだったらしい。


「王子様が迎えに来るのを待っているっか。」


 戦地が遠ければ、亡くなった者のほとんどが、故郷には戻ることがない。


「吹き出したりして、失礼だったな。」

 アランは、ひとり呟いた。

 もしかしたら、迎えに来るとは、別なお迎えのことかもしれない。

 彼女には、出ていったあの日の彼のまま。


「スタさん、あの小屋の魔法に気がついたか?」

 スタンは、頷くような仕草を見せた。

 アランは、もしかしたらスタンは、言葉が分かるのかなと思っていた。


「あの魔法、使っている人初めてみたよ。」


 小屋には、終焉しゅうえんの魔法がかかっていた。

 小屋は、魔法をかけた者が亡くなると、そのまま棺となる。

 どこに居ても、体は戻り、消えるように無くなると言われている。

 僕は、師匠にこの魔法を聞いた時、凄く怖いと思った。


 誰にも知られずこの世から、居なくなる。


 子供にとっては怖いことでも、もしかしたら歳を積み重ね、それぞれの置かれた状況なら怖くないのかもしれない。


 体の痛みに、心の痛み、愛するものに先立たれたものにとっては。


「スタさんは、魔獣だから、俺のほうが先か……。他の奴見つけて楽しんでたりして……。」


 アランは、スタンを撫でた。


 魔獣は、人より長生きだ。


「まぁ、俺より先には行くなよ。」


 アランは、先ほど貰った地図を見ながら、森の奥へと歩き始めた。


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