第6話 好き放題?
「そういえば、指は大丈夫なの?」
ティピは俺の手指を取り、確認する。
「ああ、湿布貼っとけばいいだろ」
「ダメっ!! 折れてないかちゃんと見ないと!」
コンコン……。
「ねえ、忠志……さっきから何やってるの? うるさいなぁ……開けるよ」
姉貴だ……! やばい……!!
ガチャ。
瞬間、ティピはイスに座る俺と学習机の間に滑り込んだ。
あとは……
俺は全てのものを
そのままの姿勢で首だけ姉貴を振り向き言った。
「何も問題ない……。ちょっと本棚の本が崩れ落ちただけ」
「そう……。それならいいけど……。あんた本買いすぎじゃないの? それも表紙に女の子のエッチなイラストばっかり描いてるようなやつ……。いい加減大人になんなよ? キモいし……。明日私の友達が家に来るけど、絶対あんたの部屋のドア開けないでよ? 私まで変に思われるから……。勉強も運動も全くダメ……、おまけにオタクだし……。いいとこ全くナシのダメ弟なんてマジいらないわ~。あーあ……もう寝よっ」
ガンッ!!
「うわっ!」
突然膝の間にいたティピが飛び出した。
「忠志はっ……この人は……ダメな人間なんかじゃないっ!!! あなたっ……忠志の小説読んだことあるのっ!? 楽しくて嬉しくて……でもほろっとしていっぱい泣いちゃって……、何度も何度も読み返したくなるような……そんな物語なのっ!! 知ってるの!? この人が毎日どんな苦労をして学校に行って……、徹夜で小説を書いてるか……!!」
息継ぎをするのも忘れたかのように叫んだティピは床に崩れ落ちた。
「ティピっ……!!」
「はあはあっ……! あぐっ、ううっ……」
駆け寄った俺にすがりついて泣く身体はか
これが女の子なんだな……。俺は妙な
「ご、ごめん忠志……。あと彼女さん? も……。私、ガタガタ
姉貴は素直に俺たちに謝ってくれた。
「こ、こちらこそ……すみませんでした。暴れてしまい申し訳ありません」
ティピも謝罪し、俺たちは一緒にお菓子を食べた。
「俺も悪かったよ、ごめん姉貴」
ポテチが妙に塩辛く感じると思ったら流れる俺の涙だった。
姉貴は笑顔で自室に戻り、俺とティピは手をつないで眠った。付き指してしまった右手を
翌日。
小鳥のさえずりで俺は目を覚ました。手をつないで眠っただけだが、一応人生初朝チュン? だ。
「どうしよう……!?」
「むにゃ……。ん?……おはよ、忠志……どうしたの?」
「PCが……」
そうなのだ。完全破壊してしまったのだった。昨夜はいい感じの空気になったからすっかり忘れてしまっていた。
「ティピっ……! どうしてくれるんだ~っ!」
「ええっ!? あたしのせいっ!? あ、あんたが悪いんでしょっ! あたしのことめちゃくちゃに叩いたり殴ったり、投げ飛ばしたり……好き放題やってたくせに……!」
ガチャ。
「忠志……! あんたこの子にそんなことしてたの!?」
あ、姉貴っ……!?
「ちょっとこっちに来なさいっ!!!」
「ち、違うんだぁ~」
「助けてくれっ……!」
結局俺はその日、貯金箱を割ってリサイクルショップで10年落ちのノートPCを二台買った。ああ、頭のたんこぶが
「あたしの分まで……。よかったの?」
自転車の後ろで俺の腰に手を回してティピが聞く。
「いいよ……、べつに高くもないし。古い古いパソコンだよ、動画も見れないかもな……」
「それでも嬉しい……ふふっ」
「こ、こら……そんなに抱きつくなっ! 変なとこが当たるっ」
「どこ? ねえ、変なとこってどこかしら……? 作家なら具体的に表現しなさぁ~い?」
「うう……」
「きゃあ~照れてるっ! 可愛い……!」
「ぐうっ……」
「これからはずっと一緒なんだから、こんなことは日常茶飯事よ? 覚えときなさい?」
ティピは鮮やかな陽光のもと、とびきりの笑顔を見せた。
ダメ日本語変換ソフトとして生きる彼女の苦しみを君は知らない(短編) 夕奈木 静月 @s-yu-nagi
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