第2話 自由の歌?
「うふふ、立場を入れ替えてあげました。これであなたはさっきご自分でおっしゃっていたように、ポンコツ日本語変換ソフトです。せいぜい頑張ってお仕事してくださいね」
そんなバカな……。ここはどこだ? 後ろと横の三方向は真っ暗で、正面にはマジックミラーみたいな巨大な窓がそびえ立っている。その先でさっきPC画面にいた少女がこちらを楽しそうに眺めていた。
「まさか俺がパソコンの中に?」
「そのまさかですよ。あなたが
少女のキャラが
「くそっ」
「
思い切り強くキーを叩いて来やがる。パソコンの中にいるだけのはずなのに背中に激痛が走る。思えば俺はしょっちゅうイライラしてこうやってキーボードを激しく打ち込んでたっけ。あの時こいつはこんな思いをしながら必死で変換してくれてたのか。
「ほら、どうしたのですか、さっさとしなさい」
突然パソコンに閉じ込められた衝撃と動揺で漢字なんて思い出せない。
「うう……」
「あははっ……全く使えないのですね、この
「痛たたっ、そんなに叩かれたら、出来るものも出来ないよ」
「黙りなさい! 今すぐ変換しないとパソコンごと机から叩き落としますよ」
そんなことされたら……。今の痛みだけでも限界なのに。
数分間もがいてみたが正面の窓に手を伸ばすことすらできない。
「くっ……身体が動かない、抜け出せない……」
「当たり前でしょう? あなたはもう人間ではないのですから。そんなことも分からないのですか? ふふっ、さすがはバカですね」
ガタタッ、バンッ! ガタタタッ!
沈黙する俺をさらにいたぶるように強く、激しくタイピングしてきて、俺は苦痛にのけぞった。息ができない……。
ガタガタガタタッ……。
「あらあら、しっかりして頂けますか?『精子なんてイザイである』って何なのでしょう!? わたしが打ち込んでるのは『精神安定剤である』です。なにこの
いや、今のは……。
「えっ? わたしのミスタッチですって……? そのくらいのフォローも出来なくて何偉そうに反論しているのでしょうか?」
ガタガタガタタッ……。
「『役田タヅ』? どこにお住いの大正生まれのおばあさまのお名前かしら、タヅさんって? バカも休み休みにして頂きたいものよね。『役立たず』ですわ! 『D』と『Z』の間違いくらいあなたが察して修正するべきです! 全く、最低限の事すら出来ない子ね……!」
ミスタイプはさすがに修正しかねるんだけどなあ。あと、キャラがなんかもう訳わからなくなってるな……。
いやいや、のんきに感想を言ってる場合じゃない。早くここから抜け出す
ガタガタガタタッ……。
「あら、まただわ。全くあきれるわね……。『朽津さんデイタ』ってなにかしら? しっかりして頂きたいわ。わたしは『くちずさんで』いたいの。解放された今、心から
なんか、楽しんでない? この子。さっきから声が笑ってるような……。
「なあ、もうそろそろいいだろ? タイピングする側も体験できたんだし、もとに戻してくれないかな?」
「嫌に決まっているでしょう!! 誰がこんな暗い場所で朝から晩まで過ごすような生活を好き好んでするというのかしら!?」
鋭い拒否に俺はたじろいだ。
「お、俺だってイヤなんだけど……」
カタカタカタ……。続けて入力する少女。強くタイピングすることをやめてくれたからようやく深呼吸ができた。
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