第11話 美味い娘 プリティーバーガー
一時間目は国語だった。睡眠不足ではあったものの、彰人はきちんとノートを取り授業を受けていた。
彰人の成績は中の上と言ったところで、平均よりやや上ぐらいだった。
そして授業が終わり休み時間になる。悟が彰人の席までやってきた。
「なぁ彰人、最近忙しいみたいだけど美味い娘はちゃんとログインしてるか?」
彰人はこの前トイレの個室でログインしたのを思い出し答える。
「ああ。この前久しぶりにログインしたかな」
”美味い娘 プリティーバーガー”というハンバーガーショップを題材にしたソーシャルゲームが存在する。
あらすじは主人公の女の子の実家で経営しているハンバーガーショップ<モグモグバーガー>が大手チェーン店の進出により経営難に陥ってしまう。それを見かねたハンバーガーの妖精が主人公の女の子達に協力を要請して、再びモグモグバーガーを盛り上げよう奮闘する作品だ。ストーリーも凝っており、作品に没入することができる。
この作品でいうガチャは”従業員募集”で、様々なスキルを持ったキャラクターが登場する。ガチャ石は”夢色岩塩”で一定数の夢色岩塩を消費してガチャを回すことができる。
実際のハンバーガーショップとコラボし話題となっている。もちろんマグダナルダも登場する。
「今、500万ダウンロードを記念して無料10連やってんだよ。期日は今日の11時59分までだぜ」
「えっ、マジか」
そう言ってスマホを取り出し美味い娘を起動する。するとガチャの項目に”10連無料”のポップがキラキラしていた。
「しばらく起動してないってことは50連くらいできると思うぞ。とりあえず回そうぜ」
そう言って悟は彰人からスマホを奪った。そのままガチャを回す。
「ちょっ・・・おい!」
モグモグバーガーのお店の前が表示され、演出が始まる。モグモグバーガーの入口の自動ドアから従業員が出てくる演出だ。グレーのままだと☆1、金だと☆2、虹色だと☆3という具合にドアの色でわかるようになっている。
彰人はバイトの収入を生活費に入れている身で、あまり大きな額の課金はできない。無料でガチャが引けるというのはそういった”無課金勢(無理のない範囲の課金勢)”には貴重なイベントなのだ。
「あー・・・☆3はでねぇわ」
最初の10連は金のドアが3つ。悪くもないが良くもない。普通といったところだった。
そして悟は”もう一回ガチャる”を躊躇せずタップする。彰人は悟からスマホを奪い返す。
「俺にとって無料10連は貴重なんだって!」
「わりぃわりぃ」
悟はあまり反省していない感じで言った。
20連目もあまり芳しくない結果だった。そして30連、40連も似たような結果になる。
「これで最後か・・・」
運命の50連目。10回分のガチャ結果が先に出るのだが・・・彰人はがっくりと肩を落とした。
「最低保証・・・」
最低保証とは、10連を引いたときには☆2以上が必ず1体出るのだが、その☆2が1つだけで他は☆1になったときを表す言葉である。
「おつかれ~」
悟が彰人を慰める。すると、3個目のドアでつむじ風が吹く演出が現れる。そして木の葉が舞い、画面が一瞬木の葉で隠れ、視界が開けたときには自動ドアが虹色に輝いていた。
「おお!虹昇格演出じゃん!オバロリ来い!」
スマホの画面を覗き込んでいた悟が興奮しながら言う。
オバロリとはロリッテリア(オーバーロード)というキャラクターの略称で、現在の美味い娘では”最強性能”と言われているキャラである。
だが、あまりにも強すぎるため”チート性能”と言われ、叩かれる原因にもなっている。
しかもオバロリは天井まで回しても手に入らない。天井とは一定回数ガチャを回すことで該当するキャラクターと交換できるという、いわば”救済措置”だがオバロリはなぜかその対象ではない。自力で引き当てるしかないということもアンチを増やす原因となっていた。
そして、☆3特有の演出が始まった。
~夏ですっ!私が盛り上げていきますよ~!~
「おっこれは・・・」
悟が驚いたような声を上げる。そして・・・
ロリッテリア(サマー)というキャラクターが手に入った。
「サマロリじゃん!限定キャラ出るとかツイてるな彰人!」
ロリッテリア(サマー)のスキルは<サマーサイドメニューシンフォニー>という名前のスキルで、ハンバーガー以外の全サイドメニューを一瞬で完成させることができる。
使える場面は限定されるが、十分強い性能を持つキャラクターだった。
「おお・・・」
彰人は久しぶりに☆3が手に入って悦に浸っていた。しかも無料10連で手に入ったのだ。
これほど嬉しいことはない。無料10連を教えてくれた悟にお礼を言う。言われなければスルーしていたかもしれない。
「ありがとう悟。おかげで☆3手に入った」
「礼はいらん。ただ・・・」
「ただ?」
「お前のガチャ運をよこせ!」
そんなことを言う悟に彰人は笑って対応し、悟は自分の席に戻っていった。
そして2時間目、3時間目と続き、4時間目の終了5分前くらいに生徒指導の教員である鬼塚が入ってきた。クラスのみんなは普段鬼塚が教室に入ってくることはないので、何事かとざわつく。
「みんな静かにしてくれー!今日から3か月の間休んでいた生徒が復学することになった。さぁ入ってこい」
空いたままのドアに向けて鬼塚が言う。すると一人の少女がおずおずと入ってきた。うつむいたままで前髪が垂れ下がっている。顔のないエロゲーの主人公のようだった。
だが、彰人はその人物に見おぼえがあった。
「まさか・・・通っていた学校って・・・」
このクラスにはずっと空席になっている机があった。なぜその人物の名前を覚えていないのかというと”同じ学年の生徒で交流を深めるため”という理由で突然3組全員がクラス替えを強要され、入学したときのようにランダムで配置されたからである。
「ほら、ちゃんと前を見ろ。クラス替えしてるから改めて自己紹介してくれ」
少女はゆっくりと顔を上げる。そして・・・
「私の名前は橘 空です!一身上の都合により休学していましたが、今日からまたお世話になります!よろしくお願いします!」
空ははっきりと力強くそう言った。
「あ・・・」
彰人は呆然としていた。まさか空が同じ学校に通っているなんて思ってもみなかった。
鬼塚は空の挨拶にうんうんとうなづきながら言う。
「よくできたな!橘の席は天河の隣だ。ちゃんと天河にも挨拶するんだぞ」
「え?・・・てん・・・かわ・・・?」
そして一番後ろの席にいた彰人と目が合う。空は信じられないものを見るような表情になり、やがて大きな声で叫んだ。
「彰人っ!」
その発言でクラス全体の視線が彰人に集中する。彰人は未だに信じられずにいた。
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