第4話 ファーストインプレッション
翌日。身支度をして駅前のマグダナルダに向かう。
ポケットの中に”物理”という文字が盛り上がっているメリケンサックを忍ばせていた。
これを拳につけて振りかざせば、例え当たらなくても相手をひるませることくらいはできるだろう。
「こんなものが役に立つ時がくるなんて・・・」
「レベルを上げて物理で殴れ」とは名言だと彰人は思った。メリケンサックはその言葉を受けて作った人がヌイッターに画像をアップしていたことから、自分も作ろうと思って作ったものである。
虚空さんの特徴を何も聞いてなかったが、DMで連絡をくれる約束だったし、あまり駅前のマグダナルダで待ち合わせをする人も少ないのですぐわかるだろうと思っていた。
駅を抜けマグダナルダに向かう。その際も怪しい人物はいないかと周囲に気を配っていた。
次第に呼吸が早くなる。まずは虚空さんに会って伝えなきゃいけないことがある。
そうしているうちにポケットに入れていたスマホが会いたくて震える。ホーム画面のヌイッターのアイコンに新着を知らせるバッジ表示がついていた。
#Kokuu_Sora 着きましたー^^
それを確認し、マグダナルダに向かう。
やがてマグダナルダの正面が見えてきた。入口から少し離れたところに一人の少女が立っている。他に待ち合わせをしているような人はいない。
「(あれが虚空さんかな?)」
壁を背にしている少女が目についた。そして彰人と目が合う。そして嬉しそうにはにかんだ。
そのまま彼女に近づいていく。彼女は周りにも聞こえるような声で言った
「イルポ・・・!」
イルポンさん!と言い終わる前に彼女の背にした壁に手をつき、彼女の顔に自分の顔を近づけてささやく。
「ここでその名前で呼ばないで。そして俺の言うことをよく聞いて」
虚空さんは顔を真っ赤にしながらコクコクとうなずいた。
「ここに来るまで怪しい人を見ていない?」
フルフルフルと首を横に振る。
「何かおかしいと思った点は?」
フルフルフル。
「何があっても心配しないで。君のことは俺が必ず守るから」
彼女はいきなりこんな展開になって頭がフットーしそうになっていた。おそらく目の前の長身の男性はイルポンさんで間違いないのだろう。でもこんなに積極的な男性だとは思っていなかった。彼女はときめきのあまり昇天しそうになる。なんとか声をふり絞り、目の前のイルポンさんに問いかける。
「あああ・・・あのこれっ!かかか、壁ドンってやつでは・・・?」
壁ドン?彰人は冷静になって周りを見てみる。壁を背にした彼女に対し、いきなり触るわけにもいかないから壁に手をついていた。そして変質者に聞こえないように彼女の耳元に自分の顔を近づけて話している・・・。これって・・・。
「ご、ごめん!」
あまりの恥ずかしさに体中が熱くなるのを感じた。そして彼女と距離をとる。
そもそも壁ドンとは「壁の薄いアパートに暮らしていて、少しうるさくしたときに隣の住人が壁をグーパンで殴って抗議すること」が彰人の中では壁ドンだった。いつの間にか恋愛信者たちによってイケメンが女の子を壁ぎわに追いやって告白するという、とんでもないイチャコラの対象にされていることに対し彰人は今でも納得がいっていなかった。
周りの視線が痛い。スマホを向けている人もいた。ヌイッターにアップするのだけはやめてくれと彰人は神に祈った。
「・・・」
「・・・」
お互いドキドキしすぎて会話がない。虚空さんはずっとうつむいていた。
そんな様子を男が遠くから見ていた。
「あれが虚空君、あとはイルポン君か・・・いきなり見せつけてくれるじゃあないか」
彰人の予想通り、駅前のマグダナルダで待ち合わせをしている人は二人以外にいなかった。
彼女を守るためにとった行動が、逆に目立つ結果となってしまった。男はその場から動かない。やがて二人は店内へと入っていった。それを確認し、距離を取りながら店内入口に向かった。
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