第2話 その日暮らしのなく頃に

突然VTuberから「付き合ってください!」と言われ、呆然としている彰人。

とりあえずその意味を聞いたほうがいいだろう。素早くタイピングして聞いてみた。


「付き合ってくださいとは?俺でいいんですか?」

すると反応があったのがうれしかったようで、興奮した様子で言った。

「配信して3か月経ちましたけど、きちんと挨拶をしてくれる人は一握りでした!イルポンさんは裏表のない素敵な人です!」

「えー・・・」

彰人はパソコンの前で呻いた。自分の存在感を消し、あくまで傍観者として過ごす人も少なくない。その一方で、自分の印象を植え付けようと力強いコメントを繰り返す人もいる。

一概に誰がどうとか言えるものではないのだ。


彰人は虚空さんに対して言いたいことがあった。

「今日会ったばかり、しかも挨拶をしただけの人と付き合うなんておかしいです。俺が悪い人間だったらどうするんですか?」

すると虚空さんは楽しそうに言う。

「本当に悪い人なら”悪い人ならどうする”なんて聞きません!イルポンさんはやっぱりいい人です!」


だめだこりゃ・・・。でも、この子をこのまま放っておくわけにはいかない。本当に悪いおじさんに連れ去られ、18禁同人誌もびっくりな展開がまっているだろう。こんなかわいい子(声でしか判断してないが)がそんな目にあうなんて許せそうになかった。


「とにかくダメです。簡単に人を信用してはいけない。もっと信頼関係を築いてからにしてください」

「?・・・これから22時くらいまでいて欲しいって意味だったんですけど・・・」

「(ウオアァァァァァ・・・!清潔で健全なお付き合いだと勘違いしてたー!)」

冷静に考えれば、顔も知らぬ他人にいきなり”付き合ってください(恋愛的な意味で)”とはならないだろう。あくまで(22時まで)付き合ってください、なのだ。


「あの・・・イルポンさんには私のダメなところを遠慮なく言ってほしいんです!私だって今のままじゃダメだって思ってますし・・・」

「全部」


恥ずかしさを紛らわすためでもあったが、あながち間違った指摘でもない。彼女はVTuberをなめているとしか思えなかった。

「全部ぅー?!」

アミバァー!みたいなテンションで言う虚空さん。相当ショックだったらしい。

「そう、全部だ。今のままではフォロワーが増えることはないと思う」

「そ、そんな・・・これでも私頑張ってるほうだと思ったのに・・・」

「かわいいだけなら誰でもできるんだよ。だからこそ、他人と差別化していかないといけないんだ」

「かっ・・・かわいい・・・私が・・・?」

「ああ。(声は)かわいいよ」

「~~~!」


虚空さんは声にならない声を出していた。彼女はここまで人に(しかも多分異性に)褒められたことはなかった。ぼっちで過ごしていた自分にはこんな瞬間はこないとずっと思っていた。イルポンさんのことをもっと知りたい。会いたいとさえ思ってしまった。

ぼっちはちょろいのだ。

「例えば二次改革のメンバーを参考にしてみるとかどうかな?」

まずは先駆者を参考にするところからだ。先輩たちをリスペクトし、技を盗むのだ。


「うーん・・・二次改革ですか。私なんかがあの境地に立てるとは思えませんけど・・・」

「視聴者1万人超え目指すんだろ?だったらあれくらいやらないと無理だぞ」

なにも最初からあのレベルになれなんて言うつもりはないし、それは無理だとわかっている。

それでも。どんな配信をしているのか、どうやってファンを増やしているのかも参考になるだろう。

「むしろ今までどんな配信をしてきたんだ?」

「えと・・・雑談メインで・・・」

「マグダナルダの話を?」

「そ、それはネタが尽きてきて・・・」

毎日、目新しいイベントが起こるわけではない。ただ雑談すると言っても難しいものだ。


「そうだな・・・例えば雑談しながらゲーム配信とかどう?配管工のやつとか」

スーパー配管工ブラザーズという8bitゲームの代表的な作品が存在する。

赤い配管工を操作し、捕らわれたお姫様を救うとい横スクロールアクションゲームだ。

それが発売されたのは今から35年前くらいになるが、未だに熱狂的なファンを持つ作品である。


「私、ゲームへたくそなんですけど・・・」

「上手いとか下手とかじゃなくて、一生懸命プレイする様子が伝わればいいんだよ。観客と一緒にプレイするって感じかな」


ゲーム好きな芸人さんがクリアするまで個室に閉じ込められ、一生懸命プレイする姿は感動さえも巻き起こすものであった。ちなみにその芸人さんはいくつもの奇跡を起こしている。


「ゲーム配信ですかぁ~えへへ・・・なんかそれっぽいですね」

「それっぽい、じゃなくて”それ”なんだよ。なにも雑談だけがVTuberじゃない」


それにまずはトークスキルを磨く必要があるなと彰人は思った。ただやみくもに話しても埒が明かない。こういう時は深夜のラジオDJなどを参考にするといいだろう。それはまたおいおい伝えればいいかなと思った。


「わかりました!じゃあゲーム配信できるように機材を調達しますね!イルポンさんに相談してよかった」


とりあえず今日はこんなところだろうと思った。当面の目標はゲーム配信だ。そのためにはゲーム機やソフトなどを用意しないといけないだろう。

マグダナルダのチーズバーガーの話題が出たことを思い出し、それっぽい理由で”ぜになげ”しようと彰人は思った。


「今ってラッキーセットに二次改革のグッズがつくんだよな?どれか欲しいものはある?」

「えー!もしかして一緒に行ってくれるんですか?!どうしようかなぁ・・・えへへ」

「誰も一緒に行くなんて言ってない。つーか一人で行けよ」

「マグダにソロとかきつくないですか?!陽キャグループに囲まれてメンタルがそぎ落とされていきますよ!」

「ソロで行っている人たちに謝れよ。あと陽キャはネトゲのモブみたいに凶暴じゃない」

「あいつら絶対アクティブモンスターですよ!知らないんですか?あの陰キャに対してゴミを見るような目で見てくるの・・・しにたい」

「いやなら持ち帰りすればいいだけだろ。無理に店内にいる必要はない」

「そうですけど~。とにかく、一人じゃ嫌なんです!誰か行ってくれないかなー(チラッ」

彰人は乗りかかった船ではあったが、少々めんどくさくなってきた。とにかく話題を変えよう。


「虚空さんって何歳くらい?声を聞いた感じだと同じくらいかなーとか思うんだけど」

「へ?私ですか?16歳現役JKってやつですよ~。萌えるぜぇ~」

「ふーん・・・じゃあ俺と同じか。学校はどうしてるの?」

そう発言したところ、画面上のアバターが固まって動かなくなる。ラグかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

「・・・あははぁ・・・学校なんて行かなくていいんですよぉ。二次関数をコンビニで使いますか?使いませんよねぇーははは」

「いや、実生活で使うとか使わないとかじゃなくて、自分の学力を確かめるもんだろ」

「私、そういう正論言う人嫌いです!」

「正論だって認めてんじゃねーか・・・」


虚空さんは思っていた以上に痛い存在らしかった。こうやって話していると普通なのだが、最近の学校はいじめが壮絶なところもあるとテレビでもやっている。何か悩みがあるのかもしれないし、深く追及するのもためらわれた。


「あのー、イルポンさんの学校生活はどうなんですか?学校のお話聞きたいです」

普段自分からこういう話題をすることはないが、今絶賛不登校中の虚空さんの役に立てばいいなと思って学校の話を始めた。

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