過疎っているVTuberにぜになげしたらめちゃくちゃ懐かれた件

天然由来

第1話 プロローグ

俺、天河 彰人(てんかわ あきと)は高校生だ。ごく普通の生活を送っているが、最近一つハマっていることがある。それは「ぜになげ」だ。ネットの配信者などにお金を投げることで応援する意味が込められている。もちろん、そのお金はバイト代から捻出している。そのためにネット上のあしながおじさんたちとは金額の桁が違う。彰人は金額ではなく、投げることに意味があるんだと思っている。支援とは気持ちなのだ。


今日もお気に入りの配信者の元へアクセスする。VTuber大手の”二次改革”のメンバーである手代木花(てしろぎ はな)の配信があると公式ヌイッターで告知していたのを知っていたので早速パソコンの前でスタンバイする。

「花ちゃん、最近人間関係で悩んでいるみたいだったからな・・・心配だ」


なんだか最近、仲間内でいざこざがあったとかで配信中に荒れていた。アバターは大人びた印象なのだが、声が幼い感じだし、感情にまかせて荒れた配信をすることもしょっちゅうあった。花ちゃん信者は「だが、それがいい!」と言って全面的に支援している。


ネットの掲示板を見てみると明らかにロリコンが多いようだった。まぁ、世の中ロリコンばかりだから今更気にしても仕方ないが。

もうすぐ19時。花ちゃんの配信が始まるはずだった・・・のだが。

「え・・・なんだよこれ?」

液晶モニタには「本日、手代木花は体調不良のため、配信を中止させていただきます」という画面が映し出されていた。

ここ最近は確かに病んでるような様子もあったが、配信は欠かさず行っていた。さすがにこれは心配する。そんな彰人を横目にPV数がどんどん上がっていき、画面内にはものすごい数のコメントが更新され続けている。


「花ちゃんマジかよー!」

「心配だよ~。早く良くなってね」

「ざまぁwwwもう二度と配信しなくていいよ^^」

・・・とまぁこんな感じで信者とアンチが踊っていた。


そこに公式からコメントがあった。

「花だよ~!今日はごめんね~。今度ちゃんと配信するから待っててね!」

こうなってしまえば彰人にはどうすることもできない。今日の花ちゃんの配信はあきらめるしかなさそうだ。2時間は配信するだろうなと思っていたので予定が空いてしまった。

「どうするかな・・・」

そう言いながら配信ページを適当に見てみる。すると一人の女性キャラクターの配信者が目につく。「配信をして3か月経ちました~」とある。その割には見ている人は少ない。

VTuberとは初めが肝心な部分がある。誰でも環境さえあればできるものだからこそ、初めの印象が大事なのだ。そうしないと誰にも覚えてもらえない。3か月という期間でフォロワー数がこれだけとは結構苦戦しているのではないか、と彰人はそう思った。


「応援のために行ってみるか」

今日は花ちゃんの配信がない。特にやることもないのでこの「虚空」という配信者のもとに行ってみることにした。

アバターの印象は”ヤンデレ”である。堕天使のようなイメージで、顔には眼帯をしている。なんだかとても不吉な感じだ。名前も虚空だし・・・。彰人はある程度の中二病配信者なのだと覚悟を決めた。こういうのはキャラ設定と名前でだいたい中の人の印象がわかってしまう。どうしてもその人のこだわりが見えてくるのだ。

クリックしてみる。するとすぐに反応があった。


「すみません!こんなところに来ていただいて!わ、私なんかの配信に来るなんて物好きですねイルポンさん!」

「・・・これは」

イルポンとは彰人のネット上での名前である。イルポンさんはこの挨拶でわかってしまった。

「この子、声はめちゃくちゃかわいいけど自己肯定感が低すぎる・・・!」


そう。まず、何かあったときにすぐ”すみません”と答える人は自己肯定感が低い証拠だ。

何も謝る必要はない。”ありがとう”でいいのである。そして”私なんか”という表現。自分に価値がないかのような扱いは自分をダメにする。もっと自分を大切にするべきなのだ。


「こんにちは~」

とりあえず挨拶だ。何はなくとも挨拶は大事だ。古事記にもそう書いてある。

すると虚空さんはとても嬉しそうな声でこう言った。

「きちんと挨拶してくれるなんて!すごい久しぶりです!最近は私の挨拶を聞いた途端に退出されてしまうので・・・」


いや悲しすぎるだろ・・・。彰人は頭を抱えた。おそらく最初の1ヶ月くらいはみんな新人VTuberとして見に来る人もいたのだろうが、だんだんとこの”虚空さん”のことがわかってきてみんな寄り付かなくなってしまったのだろう。挨拶もせず退出するとは相当だ。


「ふふっ、今日は3人もいますよ~。じゃあとっておきの悲しいお話しますね!」

いやなんでとっておきが悲しい話なんだよ!

彰人はもう退出したくなっていたが挨拶をした手前、すぐに退出してしまうのは心苦しい。しかもさっき、すごい悲しい事実を知ってしまったからな・・・。彰人はあまり悲しくない話を期待した。


「この前~マグダナルダに行ったんです。そして大好きなチーズバーガーをを頼んだんです・・・そしたら・・・」

「これは・・・」


彰人はオチが読めてしまった。だがもう誰も止めることはできない。

「チーズが入ってなかったんです!」

「・・・やっぱり」


チーズバーガーを注文して悲しかったことと言えばチーズが入ってないくらいしか思いつかない。チーズバーガーからチーズを抜いたらただのハンバーガーだ。悲しいと言えば悲しいことに違いはない。だがそれを聞かされてどう反応すればいいのか。

案の定3人(彰人を除けば2人)は誰も反応しなかった。


「え、すごい悲しくないですか?!だってチーズ入ってないんですよ!こんなん詐欺じゃないですかー!」

彰人は考える。このまま退出してしまおうかと。なんてことはない。右上にある”退出ボタン”クリックするだけだ。だけどこのまま放っておいていいのかと自分の中のもう一人の自分がささやく。そう考えているうちにバレン死体ンさんが退出していった。


「ああ!また減った!また減りましたよ!」

虚空さんは泣きそうだった。あとはイルポンさんとジャスティスさんしかいない。おそらくジャスティスさんも退出しょうと思っているに違いない。彰人はまだ悩んでいた。

「もーどうすればいいんですかー?!どうすれば1万人超えるんですかー!」

虚空さんは半ばヤケになった声を出した。さすがに1万人超えるのは大手VTuberだけだろう。少なくとも現状ではその数字は無理だ。そう思っていた時、ジャスティスさんが退出していった。

「あ”あ”あ”ー!」

虚空さんが断末魔のような叫びをあげる。泣きたいのは彰人も同じだった。申し訳ないがこのまま退出させてもらおう。そうすれば視聴者はゼロ。自然と配信を終了するしかない。


マウスを操作してポインタを退出ボタンまで持っていく。その時だった。

「イルポンさん!」

「アッハイ!」

彰人は自分の名前が呼ばれたことに驚き、パソコンの前で返事をした。

「付き合ってください!」

「・・・は?」

彰人は虚空さんの発言の意図がつかめず呆然としていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る