赤銅の髪の魔術士【18】 手紙
魔導師ファロウ・スペンド殿。
と、いつかは呼ばれるよう努力している貴女へ。
今でもお元気にしていますか?
怪我など、病気を患ってはいませんか?
自分の体なのだから、体調にはくれぐれも気をつけてください。
魔術士にはとても必要なことなのですから。
気づかずに眠ってもいけませんよ?
これは、私の旅が終わったときに渡してくれるようイズリアスに預けた手紙です。
貴女がこれを読んでいるという事は、私の旅がどんな形であれ終わったということでしょう。
そして、私は世を去っているはずです。
貴女は私を憧れているといつも言ってくださいましたね。
ですが、これだけは伝えておかなければいけないと常々思っていました。
私が貴女を助け出したものだと信じている様ですが、真実は異なってます。
貴女を助けたのは私ではなく、ザレス・レギオンです。
ザレス・レギオンは貴女のすぐ近くにいました。貴女を取り巻く炎の壁の中から貴女を眺め見ていたんです。炎達には、決して手出しさせないよう命を与えながら。
考える事ができない精霊の身でありながら、死なせないようじっと食い入るように観察する姿が私の目にはとても不思議な光景として映りました。
あの時の事は今でもはっきり思い出します。レギオンの表情も、炎の熱も、煙で黒く染まる空も、貴女の姿も。全部。
今思えばこれもまた不思議なものですね。人を助けない私が、唯一貴女を助け、いえ、レギオンの意向で生かされていた貴女に手を差し伸べたのですから。本当に不思議なものですね。
でも本当に体が勝手に動いていて、気づいたら貴女を抱きしめていた。
ただ、レギオンのその行為が解せず、二度目の再会の時に貴女を連れて行くかどうか散々悩んでしまったのも素直な本音です。連れて行かなければ縁はこれで切れるものでしょうし、連れて行けば、つまり貴女を利用するということだったので。
最初は連れて行くつもりなど毛頭なかったのに、結局は貴女の師となることを承諾してしまった。
誘惑に簡単に負ける私は貴女が憧れるには値しない人間なのでしょう。だから、名乗り上げなかったのかもしれません。
私は二兎を求め、どちらも手に入らなかった。その上、今はその代償を求められています。
ですが、この命一つで償えるというのなら、再び手に入れたいと願います。否、取り戻したいと求めます。
結果、貴女を面倒見るとかいいながら私はそれをいつかは放棄することになるでしょう。
そんな私は、貴女の目にどう映っているのでしょうか?
憧れに値しないと背を向けるでしょうね。ですが、もし、それでも、そんな私でも私の背中を追いかけてくれるというのなら、私は……いえ、やはりやめときます。
ファロウ。貴女がこれを読んで、わけわからないと言ってくれるのを望んでいます。知らないままに、名乗れない情け無い魔術士を追い掛けて欲しいと願って居ます。
私はいつか、きっと眠ることになるでしょう。その時はこの心臓を捧げると約束を交わしています。それは、そうする他、私の魔力を抑える事はできないだろうと断言されたからです。
誰から恨まれようが、非難されようが、この結果こそ行動を起した成れの果て。
どうか勝手な私を許して下さい。
最後に、ファロウ。
何を教えて良いのかまだ戸惑ってますが、明日から、貴女は私の弟子となり、私は貴女の師となりましょう。
この旅の穏やかなることを祈り。
ゼル・デティーズ・ウィンディ・ガルセレット
追伸。
もし出会うことがあれば私の名前をザレスと言う男に継いで欲しいと伝えてください。
そして、いつまでもお元気で。
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