第1話

ミシャルは踏み込んだ屋敷の庭に立ちすくんでいた。

なんの手入れもされていない庭に咲き誇る青薔薇は、不気味な美しさでミシャルを迎え入れていた。


このまま絡め取られそうだわ


蔓が動き出しそうなまま、動きを止めてミシャルの様子を窺っているみたいに見えて青薔薇からミシャルは距離とった。


とん、と背に何かが当たりあわてて振り返ろうとしてミシャルは口を開けたまま固まった。


「どちら様でしょう」


なんの気配もなく人がミシャルの後ろに立っていた。

顔を中途半端に向けたままのミシャルが顔をあげると、今にも射られそうな双眼が温度もなく見下ろしていた。


紅く光るふたつの宝石は本物のように温度がなく、ミシャルは恐ろしさに身を震わせた。


「誰だと聞いています」


冷たい声音で問われ、首元にはいつの間にか鋭い刃が当てられていた。

ミシャルは震える唇から必死に言葉を選んで答えた。


「ミ…ミシャルと申します」


「ここが何処かわかって入ってきたのですか?」


「はい」


ミシャルの返答に男の目が光る。

首に当たる刃が食い込んでミシャルの首から血が滲む。


「素直に答えるとは、よほど死にたいらしいですね」


男が笑い、腕に力がこもる。


もうダメだと、諦めたミシャルは目を閉じて自分の行く末を待った。


「待て」



声がして、目の前の男の動きが止まった。


「クロディクス様」


ミシャルはそっと目を開いて男を窺い見た。

彼の意識はミシャルにはなく、屋敷の方を向いている。


ミシャルも後を追うようにそちらを見て、瞠目した。


作り物めいた美しい男が2階の窓際から2人を見下ろしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る