双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

プロローグ

ミシャルは生まれた時から瞳の色が異端だと、生まれた事すら殆ど知らされる事なくすぐさま幽閉されて育てられることになった。

双子の妹であるシャルルは両親の瞳の色を混ぜたような明るいグリーンアイに対して、ミシャルはこの国ではみた事もない真っ黒な瞳の色を持って生まれた。

生まれてすぐに首を折ろうとした助産婦を止めたのはあらかじめ予告されていた呪い師の『何があっても双子は殺めてはならない』との言葉があったからだった。

予言は外さないと定評があるほど力を持った呪い師の言葉がなければとっくにミシャルはこの世にいなかっただろう。

かろうじて死なない環境下で、使用人にすら雑に扱われるミシャルは、シャルルの影武者のように使える時だけ使われる人生を歩んできた。

幽閉されていたミシャルには学ぶ環境が奇しくも整えられていた。

屋根裏部屋には古い本や使われなくなった裁縫道具なんかが置かれていて、ミシャルは時間潰しのために読者や刺繍に励んだ結果だった。

かろうじて生かされて、必要な時にシャルルの代わりを務めさせられる。

それがミシャルの人生だった。

「あんたなんかさっさと死ねばよかったのに」

淑女教育の合間を縫ってやって来たシャルルが、ミシャルに向かって溜まった鬱憤を晴らすように強い言葉でミシャルを詰る。

髪を掴まれ、頬を真新しい扇子で殴られてもミシャルは反抗せずに受け入れていた。

逆らえは逆らうほどシャルルはミシャルを屈伏させようと躍起になり、今以上に酷い目に遭う事をミシャルは身を持って経験していたのだ。

「声くらいあげたらいいのに！お人形みたいで本当に気持ち悪いわ！その黒い目も、あんたそのものも！」

吐き捨てるように言い捨ててシャルルは部屋を出て行った。

長く感じたシャルルからの暴力にミシャルの心は疲れ切っていた。

この家に居ても殺されるのを待っているだけだわ。

今日はシャルルだったが、ミシャルを物を言わないサンドバッグにするのは父や母も同じだった。

使用人ですら、暴力は振るわないとしても言葉の刃はミシャルの心に傷を残して傷が癒える事はなかった。

死に際くらい自分で決めたい。

ミシャルの心はとうとう限界を迎えていた。

自害をする勇気はなく、ミシャルはどうしようかと考えてひとつの噂を思い出した。

『公爵邸に入った者で生きて戻った者はいない。あの屋敷にいる呪われた化物に食われてしまうらしい』

どうせならと、ミシャルはその屋敷に身一つで向かう事にした。

せめて死ぬのなら化物であっても何かの役に立って死にたかった。