第25話 お嬢様花火てすか?
夏も終わりかけの頃だった。
私は漫画を読んでいてふと思う。
少女漫画では必ずと言っていいほどに夏の終わりは仲間達と手持ち花火をしている主人公含めヒロイン。
「わかってるわ。アオハルの夏の定番イベントよね」
「しかし実際手持ち花火とかは砂浜や河原では禁止になっています。
ちょっとした田舎の庭先とかが多いですね。玄関先の道路や駐車場なんかでは完全にアウトですよ。道路交通法76条違反にあたったりしますからね。
それに近隣トラブルや騒音、火災になったらという問題もありますのでまず都会の真ん中で手持ち花火をするバカはいないでしょう。
やるなら田舎まで行かなくてはなりませんよ」
と魚住は言う。
まあ確かにね。
「公園とかもお巡りさんに見つかったら無理よね」
「夜の公園で尋問されますね。公園も禁止法できてます」
「漫画のヒロイン達はそもそも夏満喫してるけど、あいつら違反してるってことよね!?
現実では手持ち花火すら許されないのね。ならスーパーとかで売らないで欲しいわよね」
「それは広い庭持ちの一軒家用でしょうね」
「くっ!小檜山の実家ならやりたい放題なのに!!」
と悔しそうに言うと
「いや、むしろ小檜山財閥の庭で手持ち花火なんてやったら怒られますよ。
めちゃくちゃ綺麗に手入れされてる庭なんだからな。庭師にブチ切れられて没収です」
と言う魚住。
まあ確かに、私…実家で手持ち花火なんてやったことないわ。
庶民になったらできると思ったんだけど、道路交通法違反やら遠征して田舎まで行かないとだしね。
「じゃあ、近所のちょっと広い家の庭先で花火やらしてくださいって言うのはどう?」
「知らん人がいきなり花火やらせろは通報レベルだから無理」
確かに!ご近所付き合いもほぼないし!こんな事なら引っ越してきた時に引越し祝いをご近所に配ったりして住人と仲良くなっておけば良かったわ!
「私一回あの…ねずみ花火とかヘビ花火とか見てみたいのよね」
「あー、漫画ではよくある展開のやつか。ただくるくる回って危ないだけだよ」
「はあ…花火セットどうする?」
とテーブルの上の花火セットを見る。
この花火はいつも行くコンビニでクジを引いたら当たったのだ!
当たったからには消費しないといけない。しかし花火をする場所が限られている!やりたいけどやれない!
「花火景品でくれるならやれる場所を書いておくべきよね?」
「それはそうだが…。こうなったらもうフリマアプリで売るか捨てるかしないとな」
「え!?す、捨てる?ほ、本気なのちょっと!!?」
せっかく当たったやつをこのバカ執事は捨てると言い出したのだ!!
「だってやる場所ねーし」
「お風呂場は?水もあるから…」
「お前アパートを火事にして捕まりたいのか!このバカが!!」
「うぐううう!!だって…!!花火やりたいもん!!」
とプライドを捨てて言うと魚住は考える。
「仕方ない…。めんどくさいが市役所に許可を取りに行こう!」
「え……!?わざわざ市役所に!?」
「そうだ。フリマで売れば容易いもののお嬢様がどうしてもやりたいと聞かないなら仕方がないだろう。
花火やりたくてやりたくて仕方なくてたまらないお子ちゃまだからな…」
そこまで言われるとなんかそこまでして花火やりたいとは思わなくなる。
「じゃあ、ちょっと市役所に…」
と立ち上がる魚住のシャツをガッと掴む。
「何だ?お嬢様…」
「いや…その…。なんていうか別に市役所に許可までとってやりたくないっていうか……」
「は?お前が言い出したんだろ?今更…」
「そうだけどさ…。市役所の人に子供でもないのに花火やりたいですとか、普通に嫌というか…」
「別に市役所の人なんかそんなこと気にしてないと思うがな」
「わたしが気にするのよ!!」
「じゃあこの花火セットはフリマで売るんだな?」
「……………………………………うん」
「間…長っ!!」
こうして私達はフリマアプリで花火セットを売り出したが、夏の終わりだけあって買い手がつかず…捨てる事一択となった。
漫画で見ているあの夏のアオハルは嘘だと思い知らされたのであった…。
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