第7話 お嬢様、捨て犬は飼えません

「ねぇ、魚住」


シュッ!


「何ですか?お嬢様…」


サッ!


下校中に私は、魚住と電信柱の影に隠れながら忍者の様に移動している最中だ。


何故なら、お嬢様である私が、徒歩とか見られたら、とてもとても恥ずかしいし、かなりヤバい。しかもボロアパートが棲家だとバレたら……。もう学校辞める。


「数日前から…、この先の少し行った所の、お地蔵様の所に」


シュッ!


「ああ、確かにありますね。いたって普通のお地蔵様が」


ササッ!


「そこに…、仔犬が捨てられてるのよね…」


「飼いませんよ」


魚住は動きを止め、言った。


「まだ何も言ってないわよ?」


「言わんでも、アホな、お嬢様の考えなど、お見通しだぜ!!」


「何が「だぜ!!」よ。じゃあ考えてること当ててみなさいよ!」

と言うと魚住は


「あの犬、めっちゃ可哀想!絶対飼いたい!保護犬活動もしなきゃだめよね!


よし!今日こそ拾って帰って、綺麗にシャンプーして、ご飯もお腹いっぱい食べさせて、私のお布団で一緒に寝て、休日はフリスビー投げてワンダフルな日々を過ごすのよ!!


でしょう?」


と言いやがった!!当てやがった!!何なの?こいつ?人の心を読む能力者だったの?


「その顔は図星か?ぜってー飼わないし、あのアパート動物禁止だから。無理ですぜ?」

と言う。


「大丈夫よ?ジョセフィーヌは私が責任を持って飼うわ!


毎日ブラッシングして、利口で賢いエレガントなワンちゃんに育てるのよ!」

と言うと魚住は


「だから飼えない、ゆーてるやろ?アホか?何回も言わすな?


てか、ジョセフィーヌ?あの犬ただの雑種じゃねーか?気取った名前つけんな!」

と制服の襟を掴まれ首が閉まりそうになる。魚住めちゃくちゃキレてる。そして、お嬢様の私に無礼すぎるでしょ!


「そんな…!ジョセフィーヌは…!私が拾ってくれるのを待ってるのよ?


見捨てろって言うの!?この悪魔!クソ執事!!」

と抗議すると魚住は


「クソ執事で結構!飼いません。この話はもう終わりです!」

と話を終わらせようとするので私は一か八か掛けに出る。


「仕方ないわね!なら、奥の手よ?」


「奥の手?」

私は意を決して制服のスカートを少し摘み、


「私のパンツ見せてあげてよ!!」

と言うが魚住は虫ケラを見る様な目で


「何でお前の汚ったないパンツを見させらんなきゃなんないの?


罰ゲーム?誰得?


とにかく!飼わないと言ったら、飼わないからな!!」


と魚住は私の奥の手に、一切の反応も見せなかった。


ていうか酷く無い?汚いパンツって!

本当に、このクソ執事には愛想が尽きたわ!


「もういいわ!私は勝手に世話するわよ!」

と言うと、


「アパートではダメだからな!」


「わかってるわよ!!せめて本邸で飼ってもらえないか交渉してみるわ!」

と私は久しぶりに本邸にいる、お父様に電話した。


『もしもし?誰だね?』


「私よ、お父様」


『ああ、私か?そうか…』


ブツッ。


私は実の父親、小檜山道幸になんとワンギリされた!!


「はあああ!?なんで切るわけ!?信じらんないわ!あのクソ親父!」

と悪態をつくと、魚住は


「旦那様は多忙な上に、詐欺だと思われたのでしょう。ちゃんと名前を言えばよかったのに」

と言う。


「じゃあもう一回かけてみるわよ!」

と電話した。すると


『はい』

と出たので


「おと…」

と言ったところで


ブツッ!


と切られた!!


「なんでよおおおお!!」

とキレかけた時、小学生くらいの女の子がやってきて


「クレオパトラーー!!お母さんがやっとクレオパトラのこと飼ってもいいって言ってくれたよ!!」

と仔犬を抱き上げた!


え?


「さあ!お家に行こう!綺麗に洗ってたくさんご飯食べようね!クレオパトラ♡」

と女の子は嬉しそうに仔犬を抱きしめて帰って行った。


呆然と立ちつくす私に、魚住は哀れな生き物を見る目で


「良かったですねぇ。あの仔犬はいい飼い主に恵まれたようです。


お嬢様が世話していたら、2秒で噛みつかれて狂犬病になり、狂っていたかもと思うと…」


「そんなわけないじゃない!!」


あああ、私の夢のワンダフルな毎日は、始まりもしなかった。





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