第6話 カッパメガネでいいわもう

 こうして私は魚住に連れられて、元婚約者、高清水聖月の家に…、ママチャリで向かった。


「…………うーおーずーみーいいいいいい?ママチャリは無いでしょ?何なの?ママチャリて!」


「うるさいお嬢様だ。しょうがないでしょうが?ほら、しっかりと漕げ?


 歩行者に注意して信号見て、俺の後ちゃんと着いてこいよ?」


「というか、こう言う場合、例えママチャリでも後ろに乗せるべきよね?何でお嬢様の私が、自らの美しい足でペダルを漕いでるの?」


 魚住と私は高清水家へ行くためにタクシーも電車を使わず、2人分の自転車をレンタルして漕いでいる。


「お嬢様。アホですか?二人乗り?そんなもん二次元で許されるものであって、リアルでは罰則なんだよ!!


 警察に見つかったら罰金2万円なんだよ!覚えとけ、このポンコツが!!」


 え?そうなの?

 青春映画とか、めっちゃくちゃ二人乗りとか無かったかしら?

 アニメとかでもめっちゃくちゃラブラブ二人乗り無かったかしら?

 あのアニメのあいつら全員違反してたって事!?


 そして視聴者からは金を取り、2万円の罰金を潜り抜けてきたっていうの?私あのアニメ見て、二人乗りに憧れさえ持ってたのに!

 なんなの?あいつら罰金払ってないの?嘘でしょ?何で夕日の綺麗な河原で、二人乗り許してんの?騙されたわ。

 全くもって騙されたわよね。


「おい、お嬢様。二次元とリアルをごっちゃにしてんじゃ無いぞ?それ、1番許されないからな!」


 と魚住が突っ込んだ所でようやく高清水家に到着した。


 てか、めっちゃ汗かいたし太腿パンパンだし疲れたしもう帰りたい。


 魚住は豪華な門の横にある、金持ち特有のインターホンを押した。


『はい、どちら様でございましょうか?』

 と丁寧な声。うちの魚住もこれくらい丁寧な言葉遣いだったらねー。こいつ、お嬢様って言っとけば、とりあえず大丈夫だろ?みたいな系統のクソ執事だから。


 お嬢様の私に対しての敬いとか無いから。


「どうも…。私、小檜山財閥の美玖お嬢様の専属執事をしております、魚住拓磨と申します。


 この度は縁があり、御友人となりました聖月様と約束が有り、本日こちらへ美玖お嬢様と足をお運びした次第です」

 と何か、


 え?


 すっげえまともな丁寧な言葉遣いで如何にも執事っぽい感じなんだけど?


 はあ?嘘でしょ?


 何こいつ?猫被り?


 バカなの?いや、私の前では素なの?

 とんでもねぇな!死ね!


『ああ、小檜山財閥の…。少々お待ちください。門を開けますので正面玄関までお越しください』

 とインターホンの人が門を開けてくれ、見事な日本庭園の横を歩き、でっかい玄関の前に来た。


 ふん、まあ、うちの小檜山財閥本邸も負けちゃいないけどね!!


「やあ!!どうも!!来たね!たっくん!!」

 とメガネをかけた、なんか身長の低い男子が出てきた!髪とかカッパみたいな感じ。魚住と並ぶと凸凹もいいとこね。私と身長同じくらいなんじゃないの?


「あ、美玖様もいらしたんですね!お待ちしておりましたよ!!」

 とにこにことカッパメガネが言う。


「……ど、どうも。い、いつもうちの魚住がお世話になっておりますわ」

 と言うとカッパメガネが


「いえいえ、こちらこそ!ささ!とりあえずお上がりください!」

 と上がり、とても広いカッパメガネの自室に通された。


 すると着物メイドさんが現れてカステラを置いていった!


 やだ!これ!あのブランド高級カステラじゃない!?


 やった!!うちじゃいつも煎餅だし!


 とよだれが出そうなのを必死で耐えて、お嬢様な私はとりあえず


「高清水様でしたわね…。貴方、プロの作家さんで私をモデルに如何わしい小説を書いてるんですってね?」

 と睨みを効かせると


「如何わしい?何のことでしょうか?僕としては崇高な女性達の愛の物語を綴っているだけですが?」

 とチビのくせに引き下がらない。


「聖月くん、お嬢様はこう言ってるけど脳みそ腐ったポンコツだからね?気にしなくていいよ?プロに誇りを持って!


 何やかんや言ってるけど負け犬の遠吠えだから」

 とクソ執事が言う。


「ああー、美玖様……。腐女子様でしたかあ!これはこれは!ド低脳でいらっしゃる訳ですねぇ!本当に婚約なんてしなくて良かったあ!貴方とは仲良くなれませんね」

 とカッパメガネが急に態度を変えてきた。


「は?何?男同士が恋愛しちゃいけないなら女同士もダメでしょうが?」

 と言うとカッパメガネが


「はあーーー!?ふっざけんなよおおおお!?


 僕は何年も何年も書いてきた!崇高な百合を!受賞し作家デビューした才能ある男なんだよ!素人の脳みそ腐り女に言われる筋合いはねぇぞー!?」


「いきがってんじゃないわよ!どうせあんたなんか家の力で受賞しただけでしょうが!!スポンサーを買収した出来レースで勝っただけなんでしょー?」


「え……そんなー…ばかなー…ことー…、無いですよ?」


「いや、急にしおらしくなったな!!図星でしょ!?図星ね!?」

 と言うと、しくしくと泣き出して魚住に抱きついた。


「うええええん!たっくーん!美玖様、僕のこといじめるー!この現代社会において、いじめはもはや社会問題で責められるというのに、敢えての無駄な精神攻撃で攻めてくるううう!!」


 と泣いた。というか、なんかすっごい論理的?な反抗を見せてる!


「お嬢様?とりあえずごめんなさいしときなさい。後々ややこしくなるから」


「え?………ごめんなさい」


「いいよ、許してしんぜよう。僕は心が宇宙の様に広いんだ!


 ついでに心が広いから著作権使用料の100万円をあげよう!ほら、持っていきなさい」


 と言うカッパメガネは、ボンと床にあっさり100万円を放った。

 何だこいつ?宇宙まで飛んでけばいいのに!!


 でもその後、魚住はそそくさと100万円を懐にしまった。おい、それ私のだろうが!!


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