あなたに逢いたくて

20yx年7月21日

 20yx年7月21日 名古屋の大きな野外バスケットコートにて

 

 一人の青年が、その舞台に立っていた。

 舞台と言っても、ステージがあるわけでもなく、元々はバスケ等を行うストリート会場に舞台が用意されているだけ。夏の暑い日差しが夕陽へと変わる時間、大勢の屈強な男たち、肉体美を見せつける女たち、色とりどりのスポーティーなファッション。いや、ロリータも、スーツも、ドレスも、コスプレも、仮面の男も、溢れ返る色や形、太陽やスポットライトの光の中。

 

「なあ、これはになるぜ」

「わかんないわよ、キングは強いのよ」

「あの少年はのよ?わからないわよ」

 

 うるさい野次馬たちはやいのやいのと騒ぎ立てる。

 全てを内包して、姿形は全て良いとする人間たちで、できた広いサークルの真ん中。

 風格漂うスポーティーな服装と、無駄のない靱やかで厳かな筋肉を持つ二十歳くらいの男が、酷く厳しい顔付きで、自分の前に立つ挑戦者である青年と対峙していた。この男は、この混沌としたサークルのキングで居続けている男だ。


 名もなき青年は、今年一年でこのキングの前に立つ程の名声を獲得してきた。黒髪で、安いスポーツ服を雑に着た青年は大きい体、靭やかにしては多めの筋肉をしており、なによりも人懐っこい笑みを一切崩すことはない。しかし、その瞳はギラギラと舞台の光を捉えている。


「決勝戦キング・カンナギVS挑戦者、新時代の怪物・イトリアキラ!さあ、はどちらに微笑むのか!!先行は、挑戦者イトリアキラ!決勝戦は勝敗が付くまで、30秒ずつ交代で踊ってもらうぜ!!!」


 MCによる高らかに響く紹介に、周りの人間たちの歓声が上がる。彼らの中には、このキングを打ち負かすべく、この戦いに乗り込み、トーナメントで落ちた敗者たちもいる。しかし、自分の負けを噛み締めつつも、これから繰り広げられる最高の戦いを今か今かと待っている。


「おい、お前は、この肩書だけの王冠がほしいのか?」


 キングは、青年に声を掛けた。どこか緊張が残る固く低い声色は、今のキングの心境を透けさせている。ずっと守り続けていた自分の王座を、本気で賭けなければならないと思っているのだろう。

 そのキングに対して、青年は緊張を一切感じさせない。


「いや、オレがほしいのはもっと、


 寧ろ、余裕を感じさせる軽い口振りで、彼の左人差し指は天を示す。彼のとんでもない大口ビッグマウスに、刺激をほしがる会場は大いに沸いた。

 

 遂にキングが破れるか、またまたキング続行なのか。いつもなら予想が出来た、どうせキングが勝つだろうと。しかし、今は会場の誰もが思ってるのだ。

 この青年は、

 

「それでは、!ダンス!キング!バトルスタート!!!」


 MCの無慈悲なバトルの開始の合図。流れるはかっこいいオールドスクールのHIPHOP。青年は流れるようにサークルの中央へと飛び出した。

 16ビートが駆け巡る30秒。

 手段ジャンルは問わない。


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