20xx年8月10日


 

 20xx年8月10日 追手筋会場にて

 

 晴天とは言えない、厚い黒い雨雲から延々と雫が降り注ぐ日であった。沢山の人達が色とりどりの雨合羽に身を包み、今か今かとその時を待っていた。

 この日、とある解散を決めた老舗よさこいチームが参加する、最後の祭の日であった。老若男女、美しい衣装を身に纏い、チームのイメージに合うよう装飾されたトラックの上に立つ口上の男。代表と呼ばれるその人の名乗りをそれぞれの気持ちを噛み締めて、じっと聞いている。


「踊り子一同、皆様に感謝申し上げます!長い間応援していただき、本当にありがとうございました!それでは参りましょう!!あいにくの雨でございますが、これはも我々とのお別れに泣いてるのでしょう!

 さあ、これが泣いても笑っても、最後の追手筋!踊り子観客みんなで大団円!!!」

 口上の声とともに、その人たちは曲の始まりを待つ、はじめの構えをとる。


 琴の音が鳴る。何度も練習した動きは、音が鳴れば、自然と動くもの。足先指先頭の先、何ならば鳴子の先までその神経を生き渡される。雨で濡れる顔、しかし、その顔はまるで太陽のような笑顔を皆浮かべている。

 

 シャン シャン シャン

 揃った鳴子の音は、鈴のように聞こえるという。まさに鈴の音よりも、遥かに美しく尊い音が雨音を超えて、鳴り響いた。その音は、観客に、踊り子に、空に届く。


 その時だった。

 誰が、いや、観客の皆の目が大きく見開かれた。

  

 今まで何処か物寂しげで、お別れを惜しむようや暗く淀んだ雰囲気だったのに、まるで踊る彼等をみてほしいと言わんばかりに、美しい太陽光が燦々と差し込む。

 まるで、舞台用のスポットライト。その太陽の熱さは踊り子の濡れた衣装を一瞬で乾かし、踊るには冷え切った身体が夏の暑さで温まる。


 袖を振れば、きらきらと刺繍が輝く。

 外側のみの提灯に、光が灯る。

 旗を靡かせば、心地よい風が客の間を抜けていく。

 高らかに響く口上の声は見ている人々の、手拍子、足拍子、心拍子を誘う。


 が彼らの味方した。そうとしか言えない光景だった。



 

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