神が宿る舞台 〜 初恋の人は〇〇でしたが俺は問題ナッシングでダンシングします 〜

木曜日御前

神が宿った日

20xx年8月4日


 20xx年8月4日 東京都千代田区にある出版社にて

 

 届いた小説家の原石たちの想いを前に、一人の男性がどこから手を着けるべきかと考えていた。公開応募が始まり、審査員として選ばれた人たちの中にいる彼は、この想いを篩いに掛ける役目を請け負っていた。


「次はアタリであってくれよ」

 

 すでに何日も作品と向き合っていたが、正直これぞというものには出会えていない。たしかに、面白いとは思うものも少しはあった。しかし、体裁があまりにもおかしかったり、どこか既視感であったり、後半に行くにつれて萎んでいったり。どれも、大賞にするにはまだまだ足りないと思うのだ。

 

「いいの、ないのかなあ。そう、これぞ的なやつ」


 男が呟きながら、先程届いただろう封筒に目をやる。ウェブ応募が主流な中でも、手書きや紙でこだわる人は一定数いるものだ。だから、今どきでも古風なスタイルで応募する人はいる。

 でも、彼にはその封筒の様子に思わず目が奪われた。


「ん?光ってる?」


 まるでこれを見よ、とでも言わんばかりに封筒が光っていた。その封筒はなんてことはない、原稿分の厚みのある茶色のA4封筒。彼は思わず、その封筒を手に取る。宛名にはまだまだ拙い字ではあったが、裏書きに書かれた著者の名前もまた「これを見よ」と言わんばかりに光っている。


「ただの、ボールペンだよな」


 ラメ入りや蛍光ペンでもない、黒のボールペンインクで書かれた部分を思わず撫でる。それでも、手を退ければ自然と光り続けていた。


 男は不思議に思いつつ、その原稿を手に取る。今はしがない編集者である彼だが、元々はファンタジー作家を目指してた時期もあった。なので、その運命を導くような摩訶不思議な光景にグッと来てしまったところもある。

 

 これが後に、荒削りな文章ながらも審査委員特別賞を受賞し、新進気鋭の作家として会社の看板を背負うことになるミステリー作家の始まりであった。


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