第2話 異世界と元の世界の違い

 次の日からは早速、授業が始まった。

 どんな風だったかって言われると……そんなに変わったことはなかったよ。普通の授業だ。そう、元いた世界と何も変わらない。予想どおりってわけだ。

 違っていたのはもちろん、その内容だ。なにせ魔法だからね。

 気分はどうだったかって? 初めは良かったよ。

 ──けど、その時間はあまり長く続かなかった。


 人間ってのは勝手なもので、どんなに興奮する体験をしても、それが一ヶ月や二ヶ月も継続すると慣れて飽きちゃうんだよね。

 俺も全く同じでそんな生活を二ヶ月も続けた頃にはすっかり慣れてしまっていた。そうなったら大変さ。だって、慣れてしまえば元いた世界と変わりがないんだから。


 半年もする頃には色んな嫌な部分も見えてくる。学生同士の飲み込みの差や、魔法に対する才能の差。教師との相性、友人関係の良し悪し、成績の良し悪し──問題が山積みだ。

 自分はどうだったかっていうと、平凡だった。成績は中の下、問題は起こさないが優秀でもないから教師は覚えてさえいない。友人もいるんだかいないんだか。

 学校っていう場所で生活するのに必要な最低限のものだけ揃ってる、そんな感じだった。

 授業が終わった後の自由時間もやることはなかった。友達と遊ぶっていうことは難しかった。一度、人間関係の輪から溢れた人間はそう簡単にはその中に入れないからね。これも異世界で変わっていないことの一つだった。


 こうやって聞くと何か新しいことを始めなかったのかって、思うかもしれない。例えば街に出て元の世界にはなかった何かを知ったり、始めたり、あるいは他の人と知り合ってみたりしなかったのか、って。

 でも、ちょっと考えてみてほしい。そんなことは元いた世界でもできたことなんだよ。異世界にくる前、元々いた世界のことを全部知ってたってわけじゃない。そこでも自分の知らない物事や、新しい何かを教えてくれるかもしれない新しい知人や友人を手に入れる余地はあったわけだ。


 けど、俺はそうしなかった。日々の生活を退屈だとは思いながらも、それを変える努力をしたりはしなかった。


 どうしてかって? それはきっと、大変なことだからだよ。

 新しいことを始めたり新しい友人を作ったりすることは、そのときに自分が置かれていた境遇は良いものだ、と思おうと努力するのとは違った種類の勇気や気力が必要になる。俺にはどっちの努力もできなかった。

 元いた世界でできなかったことが、異世界にきたからってできるようになるわけじゃない。俺が俺であることは、何にも変わっていないからね。

 ただの言い訳だって言われれば、そうかもしれない。けど、人間なんてきっとそんなもんさ。

 そういうわけで、毎日の授業をこなしていくだけで日々は過ぎていった。それで気がついたら、もう卒業さ。


 そう、魔法学校で話せる内容はたったのこれだけ。友人との騒動だとか、授業中の面白いトラブルだとか、あるいは恋愛事情だとか、そういったことが話せたなら俺も良かったんだけど。ないことは話せないからね。

 残酷というべきか当然というべきか、異世界らしい事件を起こしたりしている学生もいたよ。勝手に教わってない魔法を使って倉庫を吹き飛ばしたりとか、近所に出てきたゴーレムだか何だかを自主的に倒したりだとか、そういう話は存在した。でも、それは俺の話じゃないんだ。


 そこに、俺はいなかったんだよ。

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