異世界転移=主役とは限らない?

じぇみにの片割れ

第1話 初めの記憶

 ──さて、どこから話そうか。

 そうだな、一番古い記憶から順番に話してもいい。それこそ4歳のときにどうしてた、とかね。でも、それほど興味の持てない話だろう。もちろん、違う世界の話だから少しはマシかもしれないけどね。

 けど、重要ってわけじゃない……いや、今の自分を構成しているという意味でいえば、重要ではありそうだ。

 だから正確には、、と言った方がいいだろう。

 その観点から考えれば、話すべきことは自ずと定まってくる。特に、何から話すべきか、って点については。

 だからやっぱり──この世界に来たときから、始めるとしよう。




 最初に目が覚めたのは確か、路地裏だったと思う。

 そう、路地裏だ。石畳で昼間でも暗くって物乞いとかが居そうな雰囲気だったよ。


 最初にしたことは、とりあえず自分の状態を確認した。怪我をしてないか、とか、何着てるか、とか。それが終わったら、直前に何をしていたか、思い出そうとした。記憶障害の類は起きてなかったから、すぐに思い出せた。

 直前に何をしていたかって? それはあまり重要じゃないだろう。トラックに轢かれていようが、校舎から飛び降りていようが、関係がない。あるいは自宅で寝ていたのが直前の記憶だったとしても、この話にはどうでもいいことだろう?


 とにかく、頭を強く打って何が何やら分からない、って状態じゃあなかった。それだけで十分だった。

 ここからがむしろ重要で、にも関わらず俺は自分がどこにいるのか分からなかったんだ。これはつまり──そう、異世界に来たんだって、そう思ったよ。実際そうだったしね。

 そのときの喜びようは、それは凄かったよ。元の世界は退屈以外の何物でもなかったからね。

 それからは色々と考えたよ。持ってた知識を総動員ってやつだ。自分で言うのもなんだけど異世界転移には詳しかったからね。


 で、お察しのとおり、俺にチート能力はなかった。どうやらチート系主人公じゃないらしいと、すぐに気がついた……チートって何かって? 後で教えるよ。


 何かしらの能力を持っていないと気がついたから、とりあえず路地裏を出ることにした。

 意外なことに路地裏を出たらすぐに親切な人に出くわして、役所に連れて行かれた。そう、あれは役所としか言いようがなかった。

 はっきり言って残念だったね。異世界って感じがまるでしなかった。

 入り口で突っ立ってた俺に制服っぽい格好をした女性が声をかけてきた。


「異世界からいらした方ですか? 援助希望の方ですか?」

「えっと、異世界からきました……」


 俺の答えを聞いた女性は「こちらへ」と言って紙の置いてある机に案内した。


「こちらに必要事項をお書きになって、あちらの窓口に出してください」


 そう言って、呆然とする俺を置いてまた出入り口の方へと戻っていった。

 そりゃ、呆然としたさ。元の世界と何にも変わらないんだから。支援が受けられるって聞いて、俺が想像してた施設は役所じゃなくってギルドだったからね。


「ようこそいらっしゃいました、私たちの世界へ」

「……どうも」


 書類を出したら後は係の人にあれこれ話して職業訓練校に行ってくれ、って感じでとんとん拍子。色々あったけど、俺は魔法学校に入ることになった。まさしく、異世界に期待していたものそのものがそこにはあった。まだ何も知らなかったから、その後の成功とか妄想していたっけな。偉大な魔法使いになって、とか何とかね。

 まぁ、とにかく気分が良かった。少なくとも、前の世界より悪いなんてことはないし、これから最高の人生が送れるって確信してたね。


 ──実際、どうだったかって? ……それに答えるのは、結構難しいな。


 一つだけ言えるのは、異世界にきたから最高の人生が送れるっていうのは、ちょっと期待しすぎだった、ってことかな。

 つまり、何で前の世界は退屈で悪いものだったのかってことさ。もちろん、前の世界が物や人が溢れすぎていて、わけのわからない意味のない習慣や常識が蔓延していて、それが嫌で最悪だった、ってのはある。それは本当だ。けど、もう一つ、無視できない事実がある。それは、俺が俺だった、ってことさ。俺という人間だったから、前の世界が楽しめなかったってわけだ。そしてそれが異世界にきたからって、変わる保証なんて、どこにもなかったんだ。


 だって、そうだろう? 異世界にきたって、俺は俺のままなんだから。そこが変わったりはしないんだよ、何にもね。



 で、この後どうなったかっていうと──ちょっと、休憩しようか。

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