第20話 異文化交流
「そういえば、確かユニスは惑星オルゼンタス出身と言っていたが、君の世界には他にも人が住める惑星があったのか?」
「わぁ、よく覚えてたねっ。えっと、オルゼンタスの他には六つの惑星があって、そのうちの四つは人が生活してたよ?」
「合わせて五つか。すごいな、人が住める惑星がそんなにあるとは……!」
「んー、すごいのかな? 元始惑星だけに住んでたのは随分昔のことらしいから、ボクはちょっと分からないや」
確かに彼女にとっては当たり前のことか、それでも褒められて悪い気はしないのだろう、少し得意げだ。
「宇宙空間の航行は、惑星間の移動はどうやってしていたんだ?」
「んと、移動はね……宇宙では水の中みたいに息が出来ないから基本的には直接の移動はできないんだ。だから長距離転移を行うことになるんだけど、そこまでの転移魔法の使い手は現代では珍しいから転移門を使うのが一般的かな」
むぅ、ここで魔法か。
もう少し具体的に知りたかったところだが、俺には魔法を理解する下地がない……。
転移門、原理は想像もつかないが映画などから何となくイメージは出来る。
科学や工学も突き詰めていけば同じことが出来るようになるのだろうか。
まぁ、帰れなければそれを確認する術はないし、たとえ帰っても俺の存命中に可能になるかは怪しいところか。
そもそも地球と同じように生活出来る星が現状他に無いし、恐らくまずはそこからだろうな。
悶々としていた俺にユニスが尋ねてくる。
「ボクからも一つ質問。ルシアンさんの世界って魔術が無かったんだよね、どうやって生活していたの?」
「あっ、それは私も興味がありますね」
ユニスの向こうからダークブロンドの髪を揺らしながらひょこっと顔を覗かせた神官、アンジェリカが会話に加わる。
視界に映る二人は印象こそ全く違うが、どちらも異論なく優れた容姿をしている。
「どうやって、か……」
まさか、勇者は見た目も選考基準に含まれているのだろうか。
いや、剣士のルドルフ君はともかく槍使いのエルバートを見ればそこまで厳しい審査でもなさそうだ。
彼も俺も別に不細工な訳ではないけれど、他三人のレベルが高すぎる。
俺が出て行った後、彼がそういう面では目立てなさそうなのが不憫だな。
頑張って訓練して己が栄光を掴めよ。
俺は心の中でエールを送ると質問に答えるべく口を開く。
「ん-、俺にはいまいち魔術というものが分かっていないけれど、生活には化学や工学といった技術を用いていたよ」
「うーん、考え方や話し振りから見ても文明は結構進んでるはずなのに、魔術が全く無いなんて想像がつかないなぁ……」
どうやら科学と言う概念が無いらしくユニスはあまり納得がいかないようだ。
一方でアンジェリカは何とも答え辛い質問をしてきた。
「では、どうやって神さまを感じてられたのでしょうか。私たちは神さまを信じお祈りすることで魔法が使えるのですが、魔法という恩恵無しでどうやって信仰を確かめるのです?」
おっと、そういえば彼女はリアル聖職者だったな……。
どう答えたものかと視線をズラしたところ、気まずそうに苦笑いしたユニスと目が合った。
どうやら彼女は俺と近い考えを持っているようだ。
まぁ、自力で宇宙を移動してれば神様のありがたみも薄れるか。
他の連中はどうなのかと様子を伺うと、ユリアと国王と王妃、将軍は四人で談笑しているが、マイヤーは興味が無さそうに装いいつつもこちらを気にしている。
そして、ずっと話していたはずの剣士ルドルフと槍使いエルバートも話しを止めてこっちを見ていた。
……とりあえずは無難に答えておくか。
「もしかすると、だが、俺の世界でも神話の時代には魔法があったのかもしれないな。けれど、魔法が無くても宗教は神の存在を信じる人々によって昔から布教され信じられていたよ」
黙っているのもどうかと思いあいまいに答えたつもりだったが、どうやら肯定的に受け入れられたことがアンジェリカの表情から分かった。
「なんて素晴らしいことでしょう! 魔法で神の存在を感じられなくとも信仰心を忘れずに生きていられるなんて……。安心して下さい。それほどに敬虔な人々なのですから、いずれまた神の声が聞こえる日が必ず来ますよ」
そう言って優しい笑顔で微笑みかけてくれる彼女は、宗教者でなくとも聖女かと錯覚するくらい神々しく慈愛に溢れて見えるはずだ。
だが、一瞬。
ほんの一瞬だったが、彼女の目に怪しい光が走ったのを俺は見逃さなかった。
俺の目が捉えたのは人の嘘だ。
最初は気のせいかと思ったし、本当なら気にするほどのことじゃない。
誰だって嘘はつくし、偽りの仮面を被るなんて生きていれば誰だってあることだ。
だが、彼女の場合、吐いた嘘と隠れた先が問題だった。
彼女は勇者として召喚された神官だ。
彼女が手にしていた大層な杖は、この世界でも畏敬の念をもって受け入れられていた。
もしもあの時、彼女が聖女と名乗っていれば、この世界の者は恐らく聖女として認めていただろう。
そういう立場の人間なのだ。
そんな彼女が、何らかの嘘をついた。
自身の口で神について語っている時に。
仮に『嘘』をついたのが田舎町の小さな協会の神父なら俺も気に留めなかったはずだ。
でも彼女は違う。
どう考えても『嘘』をついていい人間なはずがない。
なのに、それどころか彼女は『嘘』をつき慣れていた。
騙し合い化かし合いが横行する世界で生きていた俺ですら、見過ごしてしまいそうになるほどの完璧な嘘だ。
もしかすると、彼女は敬虔な聖職者の精巧な仮面を被り続けているのかもしれない。
そこに思考が行き着くと、俺にはもう全力で愛想笑いをするしかなかった。
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