第3話 うん

「あ、もしもし? 二重丸コーポの住人なんですけど。今、エレベーターの中電源切れちゃっていて。ええ、はい、えーと?」


 彼がおもむろにエレベーターのボタン周辺を読み取ろうとしているから、あたしは咄嗟にそっちを照らした。あざっす、って感じで、彼がこくりと頷いた。やだ、かわいい。キュンとしちゃう。


「あ、わっかりましたー。それじゃ、後お願いします。自分の他には、若い女性と一緒なので、なるべく早く対処してください。はい、はい。では、失礼します」


 ピッと音がして、彼は電話を切ってライトにした。


「警備会社の人、こっちに向かってくれるみたいなので」

「よかったぁ」

「あ、でも。道路が渋滞していたら、二時間くらいはかかるでしょうって。なるべく早くお願いしますとは言ってあるんですけど、ほら、初詣とか、初日の出とかはあきらめた方がいいかもしれないです」

「マジかぁ。でも、うん。今年の運勢は最悪だって。さっき占っちゃったんですよね。だから、しょうがないかなって」


 占い? と、彼が聞く。


「はい。男の人はあんまり占いとか信じないと思うんですけど、ここの占い、すっごくよく当たるんですよ。って、なにプレゼンしちゃってるんだろ? 恥ずかしい」


 あれ? なんだか、彼の耳が赤い気がする。え? なに? あたし、地雷踏んだ?


「その占い、覚えているだけでいいので、ちょっと見せてもらってもいいですか? あの、嫌だったら全然かまわないんで」

「いいですよ。はい」


 あたしは、占いの結果をスクショした画面を彼に見せた。すると、さっきよりもっと、彼の耳が赤く染まっていく。おかしいなぁ? ライトの加減かしら?


「それ、信じてるんですか?」

「え? だって。でも、この占い、早速当たってるし。ほら、エレベーターの電源落ちちゃってるし」

「そういうのは運とかじゃなくて、確率的にあるんですよ。たまたまそれが元旦というタイミングってだけで」


 うん? どうした?


 つづく

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