明らかにNTRれそうなヒロインに好かれて困っている件について

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話


◇俺は絶対、振り向かない



俺は風見啓太かざみけいた、普通の高校生だ。

高校生といえば青春だ、恋愛だ、そういうやつもいる。

だが俺は、恋愛だけはごめんだ。


俺の親父は母さんを寝取られて、自殺した。

再婚して支えてくれた義母さんを残して……。

俺はそんなふうになるのはごめんだ。


傷つきたくない、裏切られたくない。

それなのに、俺の幼馴染は――――。


「けーた、おはよう!」


「だぁあああ! 朝からひっつくな、うっとおしい!」


幼馴染の蜂谷七瀬はちやななせ、こいつは昔から、俺にべったりくっついて来て、非常にめんどうな存在だ。

昔はボーイッシュな感じだったが、今ではすっかり誰もがうらやむ美少女だ。

すこし茶色がかった黒髪のショートカットに、着崩した制服が、なんとも可愛らしい。

お気に入りの黄色い髪飾りは、昔俺があげたやつだ。

こんな女、付き合っても絶対に・・・すぐ・・寝取られるに決まってる・・・・・


「けーた、あのねあのね! 昨日はねー……」


「うるせえ! 朝からそんな話、聞きたくないね!」


俺は必至に無視するも、七瀬は追いかけてくる。

思わず俺は目を背ける。

こいつが走ると、目のやり場に困る。

それに、うっかり目を合わせてしまうと、惚れてしま・・・・・いそうになる・・・・・・


とにかくこいつは、そのくらい可愛かった。

だからまあ、そんな女、ほかの男が放っておくわけないだろ?

俺みたいな陰キャが、幼馴染だからって付き合っても、すぐに寝取られておしまいだ。

だから俺は今日も七瀬を無視し続ける。


「けーた! 無視しないで!」


「うお……! ばかやめろ!」


七瀬は俺に後ろからタックル、そしてぎゅーっと抱きしめてくる。

そんなことされたら、背中が大変なことになる!

陰キャの俺には正直、刺激が強すぎる。

しかも密着されたら、七瀬のシャンプーの香りが漂ってきて……。

だめだ、正気を保っていられない。

思わず俺はこいつに告りそうになる。


「お前そんなことするなよ! 襲われるぞ!?」


「えー、けーた以外にはしないもーん!」


ふん、どうだかな……。

こいつは昔から、ガードが緩いんだよ。

すぐにべたべたしてくるし、なんでも言うことをきく。

簡単に褒めてくるし、正直いってちょろすぎる。

こんなやつ、簡単に寝取られるだろうな……。

だから俺は、絶対に振り向かない!

いくらこいつがアピールしてこようが、それは俺には罠でしかないのだ!





俺と七瀬は、なんやかんだでいっしょに学校まで来てしまった。

俺は必至に振りほどこうとしたのだが、七瀬はいつまでも追いかけてくる。

学校の門をくぐったあたりだった。

一人の男子生徒が、七瀬に声をかける。


「おはよう、蜂谷」


「おはようございますぅ、先輩!」


先輩――おそらく部活の先輩だろうか?

筋肉隆々の陽キャで、いかにも幼馴染を寝取ってきそうな見た目をしている。

だめだ、もうこれは寝取られてるんじゃないか?

俺の脳が持ちそうにない。


七瀬の声も、こころなしか普段より上ずっている気がする。

これが好きな人の前でのみみせる媚び声というやつなのか????

もうこれ以上俺に見せつけないでくれえええええ!


「がんばれよっ!」


「は、はい……!」


先輩、とやらは去り際に、七瀬の肩をぽんと触っていった。

なぁあああんだあの自然なスキンシップはぁああああああ!!!!

あれが陽キャというやつか……恐ろしい……。

もう絶対寝取る気満々だわアイツ。

俺の反応を見て、あざわらっているに違いない。


……っは!?

実はもう寝取られてるんじゃないか?

それでわざと校門で俺たちと鉢合わせするようにして、俺をおちょくっているのかも!

七瀬ぇえええ!

どうなんだ!

どうなんだ!

もうなにも信じられない……。


俺は七瀬を無視して、教室へとひとり歩を進める。


「あ、けーた! 待ってよぅ!」


「う、うるせえ! 俺に近づくな! 俺を弄びやがって!」


「え? なに? どういうことー!?」


しらばっくれやがって……。

俺はもう、誰にもときめかないからなぁああ!




―――――――――――――――――――――――――――




◇私は絶対、振り向かせる【七瀬視点】



私、蜂谷七瀬は普通の高校生。

私は啓太のことが好きだ。

啓太は幼馴染で、昔からずっと一緒だ。

お気に入りの黄色い髪留めも、啓太からのプレゼントだった。


「なのに……どうしてぇ……」


私は手すりにもたれかかり、うなだれる。

夏の暑さでそのまま溶けてしまいそうだった。


啓太にどれだけ迫っても、一向に彼は振り向かないのだ。


「あれだけアピールしてるのにねぇ……」


友達のカナちゃんが、同情して、私をうちわで扇いでくれる。

カナちゃんはいつも、相談に乗ってくれる、いいクラスメイトだ。


「ほんとだよぉ……どうにかならないかなぁ……?」


私は自分の髪留めを手で弄びながら、そうつぶやく。


「そういえば、それって、風見くんからのプレゼントだっけ?」


「そうだよぉ、私はこんなに大切にしてるのになぁ……」


きっと啓太は、自分がプレゼントしたことも忘れているのだろう。

もう私になんか、興味がなくなってしまったのかもしれない。

啓太はあれでいて、結構モテるからなぁ……。


「七瀬もなにか、プレゼントしてみたら?」


「えぇ……!? そんなの、渡せないよぉ……口もきいてくれないのに」


「まあまあ、やってみるだけ無駄じゃないんだしさ」


たしかに、カナちゃんの言うことも一理あるかもしれない。


「でも、男子の喜ぶものとか、わかんないよぅ……」


「それならさ、うちの兄貴に協力させるよ」


「え! カナちゃんお兄さんいたんだ」


というわけで、私はカナちゃんの家に行った。


カナちゃんのお兄さんは、筋肉ムキムキのスポーツマンで、啓太とは全然違うタイプの人間だった。


「俺はカナの兄のカイトだ、よろしく」


「よ、よろしくお願いしますぅ……」


なんだか少し萎縮してしまう。


「それで、男子にプレゼントをあげるんだったか?」


「はい、なにをあげれば喜んでくれるのか、全然わからなくて……」


「そうだなぁ、まあ七瀬ちゃんがあげれば、なんでも喜んでくれると思うけどね」


「えぇ……」


ほんとにそうかなぁ?

啓太、きっと私のこと嫌いだろうし……。


「そうだ、手作りのクッキーなんかいいんじゃないか? 可愛らしくて、男子ならみんなイチコロさ」


「クッキーかぁ……」


そういえば昔、啓太と一緒に作ったことがあったっけ……。

あのときと同じものをあげれば、思い出してくれるかもしれない!


「今日は助かりました。ありがとうございました、先輩。カナちゃんも、ありがとねぇ」


「いいってことよ。応援してるからな!」


「がんばって! 七瀬!」


「うん! 私、がんばるね! けーたを絶対に振り向かせるんだから!」





「……で、結局渡せなかったと……」


翌日、教室で私はカナちゃんに惨敗を報告する。

机に突っ伏してうなだれる。

クッキーはカバンに入ったままだ。


「だってぇ……今日のけーた、いつも以上に冷たいんだもぉん……」


「うーん、困ったわねぇ……よしよし」


カナちゃんはまた私をうちわで扇ぎながら、撫でてなぐさめてくれる。

いい友達だ。


「そうだ、校門でお兄さんに会ったよぉ」


「そうなんだ、どうだった?」


「がんばれって、言ってもらったんだけどねぇ……ダメだったよぉ……」


「ほんっと、風見って最低な男ね」


「けーたは悪くないよぉ!」


「あーはいはい、恋は盲目ね……」


帰りに、渡せればいいんだけど……。

とにかく今日一日、私はカバンのなかのクッキーが気になって、授業どころじゃなさそうだ。


「まあ、私たち兄妹も応援してるからさ、頑張りなよ」


「うん、ありがとう」


そうだ、カナちゃんもお兄さんも、いざとなったら助けてくれるんだ!


「あたって砕けろ! だね、カナちゃん!」


「いや、砕けちゃだめだろ」


とにかく私は、絶対に啓太を振り向かせる、と強く強く決意した――!



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