中編

かつてのこと、

発展を極めた人類は、圧倒的な科学力を以て地上の全てを征服し、自然災害に侵されることのない理想郷を実現した。

際限ない豊かさは地理の限界を超えて町々を広げていく。

猥雑に絡み合った交通網、それぞれが好きなところに住んだ結果、

歪に成長した大都市。

物資は無限に作られどそれをくまなく届けることは難しく、やがて破綻が訪れた。


とある大きな道路にて一人のドライバーが不要なブレーキを踏み、

わずかに交通の流れを遅らせた。

たったそれだけのことで、地上全土に張り巡らされた交通網は幹から枝へと

連鎖的に渋滞、やがて大陸全土がその機能を停止するに至る。

十分すぎるほどあったはずの食料は誰のところにも行き渡らなくなり、

未曾有の飢饉を引き起こした。


これが後に語られる大事件、「世界渋滞大飢饉」である。


道路は、止まることなく流れる川のようなものでなくてはならない。

そうでなくては、一度流れが乱れてしまえば、それは何千万、何億もの人間の死に繋がるのだ。


新政府は都市計画を見直し、大陸全土のインフラを一から再構築した。

人々の新しい住まいには、政府の作った住居区画が割り当てられ、そうして人口と居場所を管理された国民の元には、

島国一つはゆうに超える大きさの農場で作られた膨大な量の食料が送られる。

全世界で豊かに生きる人類をまかなうためには彼ら全員の食料の生産と

加工がいるのだ、そのために一番大切なのは、円滑な物流に違いない。

蜘蛛の巣を何重にも重ねたような網の道路は、誰がどこへ移動しようともその流れを止めない効率を極めた移動を可能としていた。


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